ニューヨーク市を描いた文学賞の予感がする新刊-Let the Great World Spin

Colum McCann
Random House
2009年6月23日(明日)発売 !
368ページ
文芸小説/現代文学/ニューヨーク

1974年8月、ベトナム戦争のさなかにある男がニューヨーク市の世界貿易センターのツインビルの間をワイヤーで綱渡りした。フランス人の綱渡り芸人Philippe Petitのこの快挙は本や映画「Man on Wire」で知られているが、このLet the Great World Spinでは、Petitは登場人物たちをつなぐ材料でしかない。
登場するのは、アイルランド人の牧師、娼婦の母娘、ベトナム戦争で息子を失った金持ちの主婦、判事、南部出身の黒人女性、…など普通であれば接点がないはずのニューヨーカーたち。彼らが、運命の不思議なめぐり合わせで繋がってゆく。
通常の小説ではなく、異なる登場人物を主人公にした短編でひとつの小説に作り上げている。白人男性のMcCannが娼婦だけでなく、上流階級の白人女性から黒人と白人のハーフの若い女性の内なる声をリアルに描いていることに感心する。
どの登場人物も悲劇と不運を体験しているが、それぞれに意味のある人生を生きるためにささやかな闘いをくりひろげている。他者から見れば、意味がないような人生かもしれないが、作者はとても暖かな目でみつめている。最後の短編ですべての登場人物の人生がひとつに繋がり、それらの意味をふたたび考えさせてくれる。

ニューヨーク市で起こったイベントを通じて、神への疑問、人生の不条理、社会批判、などを表現するとしたら、たぶん真っ先に思いつくのが2001年の同時テロであろう。だが、McCannはわざとPetitの綱渡りを使っている。彼が言うように、あの当時と同時テロ後の
ニューヨーク市には共通点が沢山ある。今はもう存在しないツインビルの間の綱渡りを読むと、同時テロを題材にしたものよりもかえってその意味を思って鳥肌が立った。
文学賞を狙える作品である。

●読みやすさ 超上級
リリカルで美しい文芸小説ですが、気取ったところがなくて読みやすい文です。しかしながら、意味を考えながら読まなければならないことと、歴史や文化を多少知っていないと理解できないことが多いです。

小説ですが、今年ピューリッツアー賞を受賞したOlive Kitteridgeのように異なる登場人物をメインにした短編でひとつの小説を構成しています。それをわきまえて読まないと、混乱するかもしれません。

●アダルト度 ★★★☆☆
母娘の娼婦が重要な登場人物になっていますし、性的なテンションを語る場面はありますが、ごくドライでマイルドです。ただし、少なくとも大学生か社会人にならないとこの小説のよさはわからないでしょう。

2 thoughts on “ニューヨーク市を描いた文学賞の予感がする新刊-Let the Great World Spin

  1. まだ読んでないのですが、
    先ほど届いたAmazonのEmailで
    2009年のEditors’ PicksでTop10に入っていただけでなく、
    なんと1番でしたよ。
    さすが渡辺さん!
    とお伝えしたかったのでした。

  2. ちょこさん、こんにちは。
    Editors’ PicksでTop1とは!チェックしてなかったので知りませんでした。
    自分のことのように嬉しくなっちゃいます。
    暇ができたらぜひ読んでみてくださいね。
    きっと図書館にもあると思いますから。

Leave a Reply