重症の強迫性障害患者と彼を治療した医師の実話-Life in Rewind

著者:Terry Weible Murphy(文章), Michael A. Jenike(精神科医), Edward E. Zine(患者)
256ページ
出版社: William Morrow
2009年4月14日
エッセイ・回想録/ノンフィクション/OCD(強迫性障害)

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Life in Rewind: The Story of a Young Courageous Man Who Persevered Over OCD and the Harvard Doctor Who Broke All the Rules to Help Himという長ったらしいタイトルのノンフィクションを実際に書いたのはベテランのテレビプロデューサーTerry Murphyである。Michael A. Jenike医師のおかげで息子の強迫性障害が改善したという経験を持つMurphyは、患者の励みになる本を書こうと思い立ち、Jenikeに相談した。そこで紹介されたのがEdward E. Zineという患者だった。
実はこのJenike医師は、強迫性障害の分野では非常に著名なハーバード大学医学部精神科教授であり、以前私が翻訳した強迫性障害に関する本にも登場している。高名な医師が紹介するのだから当然私たちは彼の治療で奇跡的に素晴らしい回復を成し遂げたケースだと想像する。ところがEdはJenikeの失敗例なのである。3年におよぶ治療がすべて失敗した絶望的な重症例にも関わらず、患者本人が自力で回復したという稀なケースなのだ。
「治療の失敗例を読んでどうする?」と言う読者もいるようだが、この本の素晴らしさは実はそこにあると私は思う。

軽い強迫性障害であれば外来での薬物や行動療法などでめざましく回復するが、中には外来に来ることすらできず、そのまま治療を受けられない患者、あるいは治療を受けても回復しない患者は存在する。
そのひとりが本書の主人公Ed Zineだ。
Edの父親は愛情の示し方を知らないタイプで、息子を心底愛した母親の死後、EdのOCDは急速に悪化する。「時間が前に進まなければ、愛する者たちは死なない」という観念にとり憑かれ、部屋のチリにいたるまですべてのものをそのままの位置に保ち、もし自分が何かを行ったらそれをビデオのように巻き戻しで行動するようになる。
地下の自室から一歩も外に出ず、体も洗わず、排泄物を部屋に保管したまま、家族や友人に食べ物を届けてもらうという生活を続けているEdをJenike医師は在宅治療するのである。
米国の病院では、「強迫性障害の患者の在宅治療はしない」のが方針のようである。著名な医師のJenikeがなぜEdを訪問治療するようになったのか、そしてなぜEdが最終的に自力で奇跡的な回復を果たしたのかを理解するには、Jenikeの型破りな経歴も知る必要がある。というわけで、この本はEdだけではなく、Jenike医師自身の生い立ちも語っている。
(アメリカの回想録に不可欠な挿入写真だが、本書で使われている写真の多くは不要)

Life in Rewindは、「この方法を使ったら、見事に症状がよくなった!」という典型的な本ではない。Jenike医師の努力にもかかわらずEdは回復しないし、改善した後でも理由はわからない。読者はそこに苛立つかもしれない。だが、この実に正直な体験談に、医師から見放された重症患者はかえって「自分にもできるかもしれない」という勇気を得るのではないかと私は思った。

●ここが魅力!
都合よくまとめず、ありのままのEdの病歴とJenike医師の試みと失敗を語っているところが私の最も感心したところです。
また、病や治療法よりもEdとJenike医師の人物像に焦点を当てていること、そして何よりもOCDの患者に希望を与えるエンディングです。

●読みやすさ ★★★☆☆
文法的には非常に簡単です。専門用語もさほどありませんし、医療関係のノンフィクションとしては読みやすい部類でしょう。
けれども、ストーリーの中心人物がEd、Edの両親、Jenike医師、などと移り変わるところで、読書のリズムを失うかもしれません。

●アダルト度 ★☆☆☆☆
特に子どもが読んで困る部分はありません。

●Jenike医師が登場するOCDの本(私が昔翻訳した本です)

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