アメリカ合衆国精神医療の光と陰を振り返るビジュアルな詩ーAsylum

216ページ
The MIT Press
9月30日発売
写真集/歴史/医療

Asylum: Inside the Closed World of State Mental Hospitals

http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0262013495
http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0262013495

Buffalo_nightrgblores_3
普通の人には精神病院を訪れる機会はないし、”Girl, Interrupted”や “A Beautiful Mind”などの映画や本の精神病院には、人権を無視して抑圧するような恐ろしいイメージしかない。
けれども、アメリカ合衆国の州立精神病院がアメリカ国民の人間性を象徴する誇りであったときがある。精神障害者が人間らしく生きることを許される場としての精神病院の青写真を描き、それを国民の義務として次々と実現していった時期があったのだ。この歴史は、これまで私が抱いていた精神病院の常識を覆すものであった。

 



19世紀後半にその青写真を描いたのがThomas Story Kirkbridgeという人物だった。彼のアイディアに沿って作られたのは施設そのものがひとつの社会として機能する巨大な精神病院(State Mental Hospital)であり、それらはThe Kirkbridgesと呼ばれた。

その中でも1876年にオープンしたニュージャージーの州立精神病院は米国で最大の規模の建築物であり、面積は674000平方フィート(約6万2千平方メートル)、敷地はなんと743エーカー(約90万坪)であった。(下は閉鎖したマサチューセッツ州ダンバーズの病院。コンドミニアムとしてよみがえることになっている)

Danvers_panoramalores_2

 

国民のプライドを反映した建築物は、病院というよりも巨大なリゾートのような雰囲気だった。手入れの行き届いた広大な庭で患者は散歩を楽しめ、演劇や音楽を披露できる劇場もあった。患者たちの労働により病院はほぼ自給自足でき、何よりも、外の世界では安心して生きられない精神障害者がここでは社会の一員として安心して生きることができたのだ。

Toothbrushesrgblores_2
もちろん精神障害者を集める施設だから美しいことばかりではない。巨大化や不況などで運営が困難になり、医療従事者による患者の虐待や放任が起こったのも事実である。また時代の移り変わりも影響を与えた。「患者の人権擁護」により労働を禁じられた患者たちは1日中テレビの前ですごすようになり、社会の一員として勤労する喜びまでも否定された。新薬の開発と医療制度の改革(改悪)により長期入院はなくなり、患者は投薬で退院を強要された。State Mental Hospitalはこうして次々と閉鎖されていったが、特別な目的で作られた巨大な建築物の再利用は難しく、多くは廃墟と化し、ある施設は刑務所になった。そして、十分な社会復帰の援助を得られなかった患者たちが、今度は犯罪者として同じ建物に戻って来たのである。

建築家で写真家のChristopher Payneは、全米にちらばるこれらの忘れ去られたState Mental Hospitalを訪問し、6年にわたって写真を撮影した。その威圧感といい、その背景にある複雑な歴史といい、まるで城の廃墟のようである。Day Roomや劇場を見ると、誇りを持って建てられた建築物であったことが想像できる。

Taunton_auditoriumlores

Bolivar_suitcasesrgblores
Payneの写真はいずれも非常に静かである。だがその静けさは、鳥肌が立つほど衝撃的だ。ひとつの写真にこめられた、人々の理想、プライド、喜び、悲しみ、絶望が一度にどっと押し寄せる。(左の写真は、この施設をついに出ることがなかった患者の残したスーツケース)この感情を的確に表現する言葉を私は考えつかない。それを写真で伝えられるPayneはビジュアルの詩人だ。

State Mental Hospitalで25年間働いた経験から「Awakening」 という国際的なヒット作を書いたOliver Sacksが真摯で感動的なエッセイを寄稿しているのも素晴らしい。

Kankakee_wardrgblores_4

尚、この作品のプロデューサーであり、編集、デザインいっさいを取り仕切ったのはわが家の隣人Scott-Martin Kosofskyである(それを知ったいきさつは以前に書いた)。彼はユダヤ教の学者・文筆家なのだが、こういう心動かされる企画があると手を出さずにはいられない。また、そういう話をさせると時間がいくらあっても足りない。一昨日Asylumをわが家まで届けに来てくれた彼にエッセイを寄稿したOliver Sacksのファンだという話をしたら、彼がどんないきさつでエッセイを引き受けてくれたかという内輪話からSacksがいかに素敵な人物かという話題でまた長話になってしまった。

興味深いScottの話の中でも次の言葉が見事にこの写真集を表現していたので付け加えておきたい。
「ブリリアントでなければ本を出版する意味はない」

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中