スピリチュアリティは健康をもたらすか

最近、医学書院看護出版部部長の林田さんから「スピリチュアリティは健康をもたらすか」という翻訳書をいただきました。

以前から私は統合医療(アロマセラピー、薬草、瞑想といった代替補完医療のなかでとくに通常医学に組み込むことができる療法のこと)に興味を抱いており、20年来の知人である林田さんにお願いして米国のがん治療の場での統合医療への取り組みのルポや学術論文の翻訳を「看護学雑誌」でご紹介させていただいたこともあります。また、終末期の臨床指
針について書かれた重要な本「エンド・オブ・ライフ・ケア」では、補助療法やスピリチュアルケア(本書では魂のケア)について解説する「終末期の全人的ケ
ア」の部分を翻訳させていただきました。

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ボストンのダナ・ファーバーがん研究所やニューヨークのスローン・ケッタリング病院といったがんの治療にかけては世界でも最先端の病院は、統合医療を積極的に研究しています。それは日本の方には意外かもしれません。でも米国ですから、科学的根拠を重視します。その科学的根拠を説明するのに使われるのが精神神経免疫学です(それだけでは説明できない統合医療の分野もありますが)。

「スピリチュアリティは健康をもたらすか」は、副題のとおり「科学的研究にもとづく医療と宗教の関係」を解説した本です。テレビでよく耳にする話題に「宗教心がある人のほうが健康で長生きする」というものがありますが、それは上記の精神神経免疫学を根拠にしたものです。簡単に説明すると、心理的因子>視床下部>下垂体>副腎皮質系、自律神経系、代謝系、心血管系、免疫系を介して身体の健康に影響を与えるというものです。
問題なのは、「スピリチュアル」の定義は何か、ということです。宗教に関連したものに限るのかどうかは、学問として研究する場合と臨床の場では異なります。学問では厳密に設定するべきですが、個々の患者をケアする臨床の場では幅広い設定にしておくべきだということは、本書でも語られています。

この本の優れたところは、たとえばキリスト教といったひとつの宗教の立場からプロパガンダをしているのではないということです。ここでの「宗教」はキリスト教であり、ユダヤ教であり、ヒンズー教でもあるのです。次は客観的かつ科学的な立場からスピリチュアリティと健康の関連性を語っていることです。最後に、医療従事者が臨床の場で患者に何を援助するべきで、「何をするべきではないのか」まで言及しているところです。

単一民族社会に近かった日本も、移民や在日外国人が増え、異なる宗教を信じる患者をケアする機会も増えて来た筈です。そのときにプロとしてどう対処するかを考えるためにも、こういった本を読んでおくことは必要だと思います。また、医療従事者ではない人にも、自分のスピリチュアリティについて考えるきっかけになるかもしれません。

ひとつだけ私が受け入れがたく感じたのは、「宗教的信念によって行動は変わるのか」という部分です。私自身の経験では「宗教心があつい」と公言する人より私のほうが倫理的だと思うことがよくあります。宗教的立場を明らかにする必要がある米国に住んでいる私は、自分の宗教的立場を「スピリチュアルであるが、組織化された宗教には断固として属さない主義」と公言しています。わが家で一致している考え方は、神に善悪を訊ねるのではなく、自分自身に善悪を問うというものです。なぜなら他人(神や教会)の審判を恐れて自分の行動を決めたくはないから。また、個人にその判定能力はある筈だし、最終的に自分の魂の責任を取るのは自分だから。ただし、宗教心そのものを否定しているわけではありません。友人にはプロテスタントの教会の牧師やカトリック、ユダヤ教の熱心な信者もいます。そういう関係が保てるのも、互いのスピリチュアリティへの尊敬だと思うのです。

誰でも病気になったり、トラブルに巻き込まれると祈ります。追いつめられてからではなく、余裕を持って自分のスピリチュアリティについて考えてみるのは決して悪いことではないと思います。

●上記でご紹介した「エンド・オブ・ライフ・ケア」

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