アスペルガーの小学生が主人公で大人も楽しめるミステリー The London Eye Mystery

Siobhan Dowd
336ページ(ペーパーバック)
Yearling; Reprint
2008年2月初版
児童書(9−12才)/ミステリー/自閉症・アスペルガー

http://rcm.amazon.com/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yofaclja-20&o=1&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=10FE9736YVPPT7A0FBG2&asins=0385751842 
http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&npa=1&bg1=FFFFFF&fc1=000000&lc1=0000FF&t=yukariscott-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&md=1X69VDGQCMF7Z30FM082&asins=0385751842

(kindle版あり)

小学生のTedは、ある症候群(病名が出てこないが、彼の言動から高機能自閉症のアスペルガー症候群であることが想像できる)にかかっているために家族や同級生の感情が読めず、状況に合わない行動をとってしまいがちである。頭脳派のTedとは逆に姉のKatは熟慮せずに行動する感情の起伏が激しいタイプで、喧嘩は絶えない。ロンドンで暮らしているTedたちのところに、母親の妹Aunt Gloriaとその息子のSalimがやってきた。Salimの父親と離婚しているAunt Gloriaは息子と共にニューヨーク市に引っ越しすることに決め、その途中で姉を訪問することにしたのだ。

London Eye TedとKatは、母、叔母、従兄と一緒にロンドン名物の巨大な観覧車London Eye(右の写真)に乗ることになった。長蛇の列にうんざりした母親たちは、子供たちにチケットを買わせ、自分たちはコーヒーを飲んで待つことにする。Tedたちが列に並んでいるとき、見知らぬ男性が「チケットを買ったけれど閉所恐怖症だから乗るのをやめた。無駄にしたくないから」とただのチケットを1枚渡してくれた。チケットを買う列が長過ぎるので、TedとKatは自分たちが乗るのを諦め、客のSalimにそのチケットを譲ることにする。Salimは2人に手を振ってカプセル(下の写真)に乗り込むが、カプセルが到着すると、そこにはSalimの姿はなかった。

London Eyeカプセル

行方不明になったSalimは何日もみつからず、警察やテレビ局を巻き込んだ大騒ぎになる。他人とは脳の働きが異なるTedは論理的な仮定を立てるが、誰も聞く耳を持たず邪魔者扱いにされる。Tedの意見に耳を傾けたのは、不思議なことに普段彼を無視するKatだけだった。大人たちが感情的になって騒いでいる間に、TedとKatは自分たちでSalimを探そうと試みる。

アスペルガー症候群(らしき)Tedの一人称で描かれたこのミステリーは、この症候群の子供の思考回路をよく描いており、プロットも児童書とは思えないほどしっかりしている。学校での人種差別、両親が離婚した子供の立場など、考えさせられるテーマが多く含まれているが、深刻にならずにユーモアたっぷりに描かれている。

●ここが魅力

洋書ファンクラブ ジュニアの読書プログラム参加者のために良いミステリーを探していて見つけたのがこの作品です。昨年末にロンドンに行ったときにLondon Eyeに乗ったので、まずタイトルと表紙の写真に惹かれ、そして主人公のTedがアスペルガー症候群らしいことにも興味を持ちました。

Emo face アスペルガー症候群の典型的な特徴のひとつは、表情が読めないことです。そこで、カウンセリングでは表情の絵(たとえば右の写真のような)から他人の感情を学ぶレッスンをします。「唇の端が上を向いていたら笑っているということで、笑っているということは良い感情を抱いていること」といったTedの解説はそういうレッスンから来ているのです。この症候群のたいていの子は目を合わせませんし、身体を触られることや怒鳴り声も嫌いです。

米国人の甥の一人がそうなので、私にはTedと周囲の大人の関係が容易に想像できます。 他人からは異常に見えるTedの言動を彼の視点で追うと彼のほうが絶対に論理的なのですが、大人たちは聞く前から下らないことと決めつけて「黙りなさい」と叱ります。甥と彼の父親の関係がまさにそんな感じです。でも、いったんTedの思考回路を理解すれば、この状況の理不尽さに、きっと吹き出したり、立腹したりしてしまうでしょう。

アスペルガーならではのユーモアがたっぷりで、「嘘をつけない」性格のTedが調査のために嘘をつくことを覚え、それを誇りにして「My Lies」というホルダーを作り "It's got a lot of growing to do"と決意を新たにするところなんかは、つい笑ってしまいます。

みんなから変人で邪魔者扱いされているTedが、その頭脳を発揮して事件を解決するこの児童書ミステリーは、ロンドン下町の家族関係や人物描写が優れていて、大人も楽しめるミステリーです。

●読みやすさ ★★★★☆

簡単で読みやすい文章です。英国特有の表現はありますが、わからない単語があっても前後関係でほぼ理解できると思います。Tedが気象オタクなので気象に関する単語がよく出てきます。

児童書の読みやすさについては、洋書ファンクラブ ジュニアのほうでさらに詳しく分類するようにしています。そちらをぜひご参照ください。この本は、小学校4年生か6年生、中学生向けのカテゴリーに貼ります。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

親が子供に「これどういう意味?」と尋ねられてちょっと困るかもしれないな、と思う場所が2カ所ほどありましたが、それ以外は9才くらいから読んでも大丈夫な内容です。困る箇所というのは、離婚している叔父と叔母がキスしてるのではないかと主人公のTedが想像して気分を悪くしているところ(アスペルガーらしき彼にとっては人と人が触れるのを想像するだけでも気持ち悪いらしい)と、Tedの姉Katが、「子供がさらわれる理由はお金だけではない、セックスのためだ」と弟に話すところです。それ以上話題は発展しませんが、気になる親ごさんはいらっしゃるかもしれませんね。私なら娘がこの年齢以下でも読ませ、質問されたら「いろんな意味で変な人がいるから気をつけないとね」と軽く説明したと思いますが、親ごさんによってはそういうシチュエーションを避けたい方がいるかもしれません。
また、低学年のお子さんには病名が出てこないTedの症候群についての説明が必要だと思います。

●これとよく似た傑作です。どちらもおすすめ。
The Curious
Incident of the Dog in the Night-time

4 Comments

  1. 由佳里さんこんにちは。
    読みました~(^^♪ おもしろかったです。
    主人公Tedはアスペルガーとしては軽い方なんじゃないでしょうか。知らない人と話してはいけない、と思いつつちゃんと話しかけることもできるし。コミュニケーションが成立してますものね。 
    私としては事件が解決したことはもちろんですが、Katとの関係が良くなったことがうれしかったですね。
    続編もあったら読みたいな、と思っていたのですが、著者が47歳という若さで亡くなったと書いてあって残念です…(T_T)

  2. こんにちは、karimama12さま。
    そうなんですよ。著者の方、亡くなっているのです。残念ですよね。
    自閉症スペクトラムはいろいろありますから、Tedはボーダーあたりの設定かもしれないですね。学校で特別な授業を受けているということは、なんらかの診断を受けて症名を与えられている筈ですし。きっちり言っていないところが、かえって良い部分なのかもしえません。
    下記は高機能のアスペルガーの方が書いた自伝ですが、アスペルガーの方からの「私はそうではない。これは違う」という感想もありますね。私たちは疾患名に注意を払いがちですが、「ふつう」とされている範囲内にもいろんな性格がありますからね。まとめて考えてはいけない、ということなのでしょう。
    http://watanabeyukari.weblogs.jp/yousho/2009/01/look-me-in-the.html

  3. 10歳の息子がこれを読んで、面白かったと言っていました。書店で見かけたとき、店員さんが「大人が読んでも面白いですよ!」と言っていたので購入したのですが、もしや由佳里さんのところにレビューがあるかなと思って検索したら、ありましたね!
    今度は私が読もうと思います。

  4. こんにちは!
    もっと売れて欲しい本だと思っていたので、書店で薦めてくれたというのが嬉しいです!
    きっと佐知さんのお気に召す本だと思います。
    私は大好きでした。

コメントを残す