無垢が恐怖、歓喜、トラウマ、癒しと移り変わる不思議な雰囲気の小説 Room

Emma Donoghue
336ページ(米国版、ハードカバー)/ 320ページ(英国版、ソフトカバー)
Little, Brown and Company (2010/9/13)
Picador; Trade Paperback.版 (2010/8/6)
文芸小説

ブッカー賞最終候補(発表は2010年10月12日)

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右はキンドル版>
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小説Roomはこのように始まる。

Today I'm five. I was four last night going to sleep in Wardrobe, but when I wake up in Bed in the dark I'm changed to five, abracadabra. Before that I was three, then two, then one, then zero. "Was I minus numbers?”

今日ぼくは5歳。昨日の夜”ワードローブ”の中で寝たときには4歳だったけれど、真っ暗なときに“ベッド”で目をさましたら、アブラカダブラ、5歳になってたんだ。その前は3歳で、その前は2歳、その前は1歳で、その前がゼロ歳。「ぼく、マイナス歳だったの?」


この小説は、最初から最後まで5歳のJackの視点で語られる。上記で私がワードローブ(衣装だんす)とベッドを“”で括ったのは、Jackがすべての物に人格を与え、感情移入をする子だからである。aとかtheがなく大文字で始まっているし、物をheとかsheで呼ぶ。英語を読み慣れている人は読み始めてすぐに「JohnとかBenみたいなものなのだな」と気付くだろう。

初めのうちこの小説は、どこにでもある5歳のJackとそのお母さんのMaのほのぼのとした日常のように進行する。だが、少しずつ、どこか奇妙だと感じる。その奇妙さがじわじわと広がり、語り手のJackが気付かない恐ろしい真実が、読者には徐々に見えてくる。

ネタバレ注意!先入観なしに読みたい方はこれ以下は読まないでください。

Jackが毎晩ワードローブの中で眠らなければならない理由は、夜になると「Old Nick」が現れることがあるからだ。Old Nickは食料品や服を運んで来て、ゴミを持ち去る。Roomの世界のものだけが本物で、テレビの中のものは偽物である。MaはJackと1日中遊んでくれるけれども、ときおり心がどこかに行ってしまっているようなときもある。ある日、Maは聞きたくないような話をする。そして、Jackに重要な使命を与える。Jackは、怖い(Scared)けれども勇敢(Brave)であるScaveな行動をする。

しかし、そこで全ては終わらない。外の世界は自由だとMaは言ったが、Jackは新しい世界での情報の膨大さに心の行き場を失う。Maも想像もしていなかったトラウマに押しつぶされそうになる。JackはMaが忌み嫌うRoomを恋しがり、戻りたいと思う。

●ここが魅力(ネタバレあり)

10月12日発表のブッカー賞の最終候補作のひとつで、非常にユニークな作品です。
父親が娘を24年地下の部屋で監禁していたというオーストリアであった実話などがヒントになっていると思われる(だが同じではない)この小説では、監禁された女性のMaの視点ではなく、1辺が3.5メートルの個室でMaに育てられた5歳のJackの視点ですべてが語られるところがユニークです。

イノセントに始まった物語が恐怖に変わり、通常のサスペンスならその恐怖から救われるところで終わりなのに、この物語は「それから」の部分がメインともいえます。リアリティのある心理描写とエンディングの扱いが見事だと思いました。

●読みやすさ 中程度

5歳のJackが語り手なので、基本的には難しくはありません。
けれども、(知能が発達した子とはいえ)5歳なので文法を間違えたりします(例えば、knewをKnowed, broughtをbrung、など)し、外の世界を知らないがゆえの独自の表現もあります(物に人格を与え、he, sheで呼ぶなど)。また、米国のテレビ番組や児童書についても、米国に住んでいない人にはわかりにくいかもしれません。
例えば、北アメリカで育った人なら誰でも知っている「Goodnight Moon」の内容を思わせる部分が何度も出てきますが、これを知っていることはけっこう大切だと思います。

最初から引き込まれあっという間に読んでしまえる、という点では非常に読みやすい本です。

●アダルト度 

5歳の視点ですが、性的な内容が分かることは出てきます。
大人の会話を立ち聞きしたことも出てきます。
従って高校生以上が対象です。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

無垢が恐怖、歓喜、トラウマ、癒しと移り変わる不思議な雰囲気の小説 Room」への4件のフィードバック

  1. 渡辺さん、こんにちは☆
    ちょうど私もRoomを読み出したところで
    渡辺さんのレビューを拝見しました。
    それですぐにGoodnight Moonを読んだのですが、
    渡辺さんにありがとうを言いたいです!
    Goodnight Moonを読まずに
    Roomを読み終えていたら、
    かなり違う読後感になったはず。
    いつも本当にありがとうございます!!

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  2. ちょこさん、
    こちらには既にお返事していると思っていたので、自分でも「あれれ?」と。ボケております(笑)。
    日本で育ったせいで読み逃すものってありますよね。それが時おり残念な私です。

    いいね

  3. 渡辺さん、こんにちは
    この本で、洋書を読む面白さを知りました。
    この本と出会うキッカケを作って頂いた
    渡辺さんに感謝です。
    ありがとうございます!

    いいね

  4. Nodyさん、こんにちは。
    そう言っていただけて、嬉しいです。
    今ちょっと仕事などで更新が遅れていますが、まだ発売されていない新刊の山がありますので、どんどんご紹介してゆきたいと思います。
    これからもどうぞ宜しく!

    いいね

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