戦争に荒れ果てたバルカン半島の寓話と現実 The Tiger’s Wife

Téa Obreht
ハードカバー: 352ページ
出版社: Random House
2011/3/8刊行
文芸小説/寓話的小説/バルカン半島/戦争・歴史

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旧ユーゴスラビアのある国に住む若き女医 Natalia Stefanoviは、国境を超えて人道的医療活動をする旅先で愛する祖父の死を知る。

著名な医師の祖父とNataliaの間には、かつて2人きりで動物園にトラを観に行くという儀式めいた習慣があったが、動物園は内戦で破壊されてしまい、祖父は反政府の疑いを受けて大学で教えることや医療活動を禁じられてしまった。 祖父に死期が迫っていることを知っていたのは、彼の影響を受けて医師になったNataliaだけだった。けれども、祖父は彼女にも知らせずに旅に出かけ、その旅先で死んだのだった。


故郷から遠く離れた旅先で、Nataliaは亡くなった祖父が語った「Tiger’s wife」の逸話を思い出す。 祖父が幼いとき、故郷の村に耳が聞こえず言葉が話せない(deaf-mute)女性が住んでいた。肉屋のLukeが余所から連れ帰った花嫁は、村の人びととは異なるイスラム教徒で孤立した謎の存在だった。かつて音楽を愛する純粋な若者だったLukeは、大きな失望を体験して妻に暴力を振るう残酷な男に成り果てていた。戦争で爆撃された動物園からトラが逃げて来たとき、村の人びとは悪魔として怖れるが、肉屋の妻だけはトラと心を通わせる。それがかえって肉屋の妻に対する人びとの迷信と恐れをかきたてる。

ブルース・スプリングスティーンが好きで、論理的な思考回路の現代っ子であるNataliaにとって、生前に祖父が語った「Tiger’s wife」や決して死なない「deathless man」の思い出話は、ただの寓話でしかなかった。けれども、戦争で異国となった村を医療奉仕活動で訪問しているときに遭遇した不思議な出来事や、祖父が亡くなった場所を訪問するうちに、寓話が現実に重なり、祖父や祖国への思いを深めてゆく。

●ここが魅力的!

著者の Téa Obrehtは1985年に旧ユーゴスラビアのベオグラード(英語表記はBelgrad)で生まれ、12才のときに米国に移住した若手女性作家です。

「The Tiger’s Wife」に登場する地名は架空のもののようですが、旧ユーゴスラビアが舞台とみなしてよいでしょう。旧ユーゴスラビアには、五つの民族(スロベニア人、クロアチア人、セルビア人、モンテネグロ人、マケドニア人)、四つの言語(スロベニア語、セルビア語、クロアチア語、マケドニア語)、三つの宗教(正教、カトリック、イスラム教)が共存し、常に民族主義者による内戦の危機に面していました。ユーゴスラビアが解体したユーゴスラビア紛争には、1991年のスロベニア紛争、クロアチア紛争、1992年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、1999年のコソボ紛争、2001年のマケドニア紛争、などがあります。その解体の様子をこの地図で見ることができます。本書は特定の紛争について直接語っていませんが、背景を知ることにより、Obrehtの描いた世界がより鮮明に浮かんできます。

The Tiger’s Wifeは、ひとことでまとめきれないほど入り組んだ小説です。現実世界に祖父が語った逸話が溶け込み、その逸話にはさらに深い逸話があります。それらをどう理解するのかは読者次第であり、その曖昧さに惹かれる文芸小説ファンは多いでしょう。

現実と寓話の世界を自由に行き来しながら独自の世界を描き出す文体はガルシア=マルケスを連想させる巧みさで、とても25才が書いたものとは思えません。文学賞の候補になることが予想される優れた作品です。

●読みやすさ やや難

現実と寓話を行き来するために、英語の本を読み慣れない人は混乱するのではないかと思います。また、ストーリーがはっきりしたミステリーを読み慣れている方も、「どこにストーリーがあるのだ?」と苛立つかもしれません。

けれども、文芸小説が好きで、日頃からよく読んでいる方にはさほど難しくは感じられないでしょう。

●対象となる年齢

特に問題になる箇所はありませんが、中学生以下の年齢には難解に感じるでしょう。

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