架空の島での凶暴な海馬レースを静謐に描いた不思議な雰囲気のティーン小説 The Scorpio Races

Maggie Stiefvater
ハードカバー: 409ページ
出版社: Scholastic Press
ISBN-10: 054522490X
ISBN-13: 978-0545224901
発売日: 2012/1/1
文芸小説/ヤングアダルト/ファンタジー

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アイルランドの一部と思わせる架空の島Thisbyでは、海からcapaill uisce (クプルーシュカと発音する)という海馬が現れ、動物や漁師を殺して食べる。けれども、海馬とともに生きてきた島民たちは、凶暴な肉食のcapaill uisceを捕獲して馬のように乗るようになっていた。
一年に一度この島が観光客でにぎわう祭りの最大の目玉は、capaill uisceを使った競馬、Scorpio Raceである。


capaill uisceは飼い馴らすのが殆ど不可能とみなされており、乗り手が一瞬でも気を緩めると喰い殺される。レースの間に海馬が互いに噛み付き合うので、地面に落ちたら他の馬に踏み殺される。練習の間に死ぬ者も多い。それでも、このレースに優勝すれば貧困から逃れることができる。
だが、厳しい自然環境と貧困に耐えてきた島の男たちにとっては、お金だけでなく、究極の男らしさを競うレースでもあった。

Kate(Puckというあだ名)は、両親が亡くなった後、母親代わりになって兄と弟の面倒をみてきたのだが、兄が自分に内緒で本土に渡る計画を立てていたことを知りショックを受ける。そのうえ、滞納している家賃が払えなければ住む場所も失ってしまう。
そこで、海馬を嫌っていた両親の影響でこれまで見たことがないScorpio Raceに出ることを決める。勝てば家を買い取ることができるからだ。
だが、女のKateがレースに参加することは無謀なだけではなく、島の男たちにとっては「侮辱」でもあった。彼らのむき出しの敵意は、kateを何度も命の危機に陥れる。
しかも、capaill uisceは、Kateが想像もしなかったほど凶暴な動物であり、Scorpio Raceも壮絶な闘いだった。

敵だらけの環境で、唯一Kateに援助の手を差し伸べたのが、これまで4回連続レースに勝っているSean Kendrickだった。

●ここが魅力

Shiverでもそうでしたが、Maggie Stiefvaterの魅力は、文章がつくりあげる情景の美しさです。
架空の島の容赦ない自然、我慢することが当たり前になった島民たちの顔に刻み付けられた皺、冷たい潮風と、それがしみ込んで乾かない分厚いコート、口にしない思いの積み重ね… 。それらのリアル感に凍えてきて、つい家の中でコートを着たくなってしまうくらいです。

Stiefvaterの本はティーン向けということになっていますが、じつは大人のファンが多いのです。文章だけでなく、内容が成熟しているからでしょう。交互に一人称の語り手になるKate(Puck) とSeanは、ヤングアダルトのファンタジー小説にありがちなタイプではなく、美しくもなければ特別な魔術を持っているわけでもありません。
また、海馬という架空の動物が登場する以外は、ファンタジー的なところがありません。多くのティーン向けファンタジー小説ではロマンスが重要なのですが、kate とSeanのロマンスは実に静かなものです。それよりもレースを中心とした島と島民の描き方が興味深く、他のティーン向けの小説にはない魅力がありました。

馬に乗って育ったStiefvaterは、昔から海馬についての本を書きたかったようです。伝説の海馬で有名なのはKelpie と Each Uisge なのですが、どちらも彼女の書きたいものに合わなかったようです。そこで彼女はcapaill uisceという海馬を作り上げたのですが、彼女がかつて乗った馬のなかにはこういう性格の馬もいたそうです。

Stiefvaterは、絵も音楽も文章を書くことも好きだったので、どれをやればいいのか悩んだこともあったようですが、今ではこんな風に全部を使っているのですね(音楽とイラストはStiefvater)。

 

●読みやすさ ふつう

通常ヤングアダルトは読みやすいのですが、Stiefvaterの作品の良さを知るためには、やや読書体験を積んでおくほうがいいと思います。

●おすすめの年齢層

作者が書きながら「この2人いったいどうしちゃったの?まだキスもしてない!」と自嘲していたように、キスシーンは1箇所だけ。しかも非常にあっさりしたものです。人が死ぬシーンもありますが、児童書でももっと辛い本は多いですから、小学校高学年からでもOKです。

2 Comments

  1. こんにちは。私もこれ昨年読みました。こちらでshiverに興味を持ってシリーズ読んでから、とっても詩的なこの作者のファンになりました。これもやっぱりとてもよかったです。北風の音、荒々しい波の音、寒さまで伝わるような感覚になりました。
    渡辺さんのおっしゃる通り、Shiverのように読みやすくはありませんでしたが、ラストの希望がある終わり方がとてもよかったです。恋の進展もかえってよかったです。初々しいです。
    Shiver同様これも映画化されると聞きました。どんな映画になるかちょっと楽しみです。
    そうそう、こちらで見つけた「The Tea Rose」先日読みました。ドラマチックでスリリングで、ロマンチックで。もう感動しちゃいました。ありがとうございました。ずっと本棚に置いてあったのをなぜもっと早く読まなかったのかと思うほど面白かったです。いつも素敵な本をご紹介くださり感謝しています。また楽しみにしています。

  2. angelさん、
    お返事がすごーく後れてもうしわけありません。
    執筆でずっと時間がとれないでいました。
    初々しいって感じ、そのものですよね。
    今年の私のお気に入りのひとつです。
    このところ更新が滞っていますが、これからまた時間をみて頑張りますから、宜しくお願いしますね!

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