ドラゴンと人間が共存する世界を描く新しいファンタジー Seraphina

Rachel Hartman

ハードカバー: 480ページ

出版社: Random House Books for Young Readers

ISBN-10: 0375866566

ISBN-13: 978-0375866562

発売日: 2012/7/10

YA(ヤングアダルト)/中学生から高校生以上/ファンタジー/ドラゴン

 

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ドラゴンと人間は激しい戦闘の末に停戦条約を結び、40年の年月が過ぎた。だが、平和な共存とはいえない40年だった。

人々は人間の二倍長生きするパワフルなドラゴンを恐れ、ドラゴンは肉体的に劣る人間からの不当な扱いに甘んじることに不満を抱いている。

停戦条件のひとつは、ドラゴンが人間の社会に立入るときには人間の形態をとらねばならないことであった。彼らは「saarantras」と呼ばれる存在で、表面だけは人間だが思考回路はドラゴンである。人間のような感情に欠けるドラゴンは、人間の形態を取って音楽の技術は達成することができても、感情を表現することができない。体臭も異なるので、表面が似ていてもsaarantrasであることを隠しとおすのは難しい。

条約ではドラゴンと人間の性的関係も強く禁じている。処刑の対象になるほどの犯罪とみなされているのだが、条約を書いた弁護士の娘Seraphinaは、人間とドラゴンのハーフだった。


Seraphinaの父は、恋におちた女性が難産で死ぬときまでsaarantrasだと知らなかったのである。

Seraphinaは本人の安全のためにも世間から隠されて育つが、亡くなった母の弟のOrmaから音楽を学び、父の怒りを無視して宮殿で音楽ディレクターのアシスタントの職を得る。

停戦条約40周年を記念する行事を前に、民衆から愛されていた王が殺害され頭部のない死体が見つかった。その事件をきっかけに民衆のドラゴンに対する人間の懐疑心が膨らみ、不穏な雰囲気が高まる。

いっぽう、Seraphinaのドラゴンの祖父が謀反を企てている可能性が生まれる。Seraphinaは、人間とドラゴン両方への愛と忠誠心の間で揺れ動く。

● 感想

ドラゴンものは書き尽くされた観があります。ですから、新たにドラゴンものを書くとしたら、これまでなかった設定か特別に素晴らしい物語である必要があります。本書Seraphinaは、それらをクリアしているという前評判でした。

ですが、本書のように人間の形態をとることができるドラゴンはEarthseaなどこれまでいくつものファンタジーですでに使われているアイディアす。

また、ドラゴンに人間と同じような感情がないことも同様です。けれども、このYA対象のファンタジー『Seraphina』では、ドラゴンが人間の感情を「ドラッグ」のようにやみつきになる魅惑的で危険なものととらえており、それは新しい切り口です。人間の形をとったsaarantrasになっても、極めて論理的な思考パターンを失わないドラゴンもいるのですが、Seraphinaの母親のように感情を持つことの魅力に惹かれて人間として生きることを選んでしまう者も出てきます。それはドラゴンの世界では処罰に値する深い罪なのです。

人間の持つ感情の魅力と、感情と音楽の関係が物語の重要な部分を占めていることには大いに魅力を感じました。

本書はYAものにしては世界がきっちと作られており、文章も良く、興味深いところは沢山あります。7月10日に発売されたばかりで、読者の反応も良いのですが、私はいまひとつ熱意を抱くことができませんでした。

理由のひとつは、登場人物がしっかり造形されていないことです。最も魅力的なのが彼女の叔父のOrmaですが、それ以外は私が興味を抱ける人物がいないのです。Seraphinaも魅力的になる要素が沢山あるにもかかわらず、いまひとつ感情移入ができません。これは、先にご紹介したA Discovery of Witchesとも共通しているところで、人物造形がいまひとつ十分ではないのです。

また、(あまり大きな部分を占めていないものの)Seraphinaのロマンスに説得力がないことも難点です。相手の人物造形にも問題があります。

王家の人々も、王宮の構造も単純すぎます。たとえYAもので高校生向けではあっても、この世界に応じた本物らしい王宮の政治を反映してもらいたかったものです。そこは非常に不満でした。

ただし私の意見は今のところ少数派のようです。

多くの読者は絶賛していますので、確率的には好きになる方のほうが多いでしょう。私の意見が厳しいのは、たぶん「読み過ぎ」ているからだと思います。

ですから、とりあえず試してみてください。よく売れている類いのYAファンタジーよりもは、ずっと出来が良い作品ですから。

これはシリーズものらしく、続編を約束する終わり方でした。

 

●読みやすさ ネイティブの普通レベル、やや入り込みにくい

YAものにしては難しいほうではないかと思います。

ストレートな進行ではなく、ペースが遅いので、入り込みにくいかもしれません。長いのもやっかいなところです。

ヒロインのSeraphinaが頭痛と一緒に見る幻覚の部分も、最初は何が起こっているのか分かりにくいかもしれません。

 

●おすすめの年齢層

性的表現はキス程度までですが、出産でSeraphinaの母が亡くなる場面があります。中学生以上が対象。

 

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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