ダークなファンタジー版『オーシャンズ11』。天才的詐欺師Locke Lamoraが率いるGentleman Bastardsシリーズ

著者:Scott Lynch

適正年齢:R(バイオレンス、性的シーン、罵り言葉)

難易度:上級〜超上級(ネイティブでも最初の部分が入り込みにくい。時が前後するので混乱しやすい)

ジャンル:ファンタジー/アクション

キーワード:盗賊、詐欺、魔法

第一巻の"The Lies of Locke Lamora"は、『洋書ベスト500』のファンタジーのジャンルでもご紹介した。

1.The Lies of Locke Lamora

中世のベニスを思わせる島Camorr(カモール)には、Capaと呼ばれるギャングのボスが統率する巨大な裏の社会がある。現在Camorrを統率しているのはCapa Barsaviで、いくつもある犯罪集団は彼への忠誠を誓い、その範囲で許される犯罪を行うのである。孤児のLockeは、6歳の頃に彼のような孤児を利用する盗賊主から『盲目の司祭』Chainに売り飛ばされる。だが、Chainは盲目ではなく、彼が司るのは、盗賊の神"Crooked Warden"である。この世界の人々は12の神を敬っているが、"Crooked Warden"は13番目の神である。

他の犯罪集団では、孤児はスリに利用されるだけで、大きくなると別の集団に売り飛ばされ、無教養で育つ。だが、Chainは、買い取った子どもたちに貴族としても通用する教育とマナーを教え、武術や農業、演技などのトレーニングもさせる。Chainのもとで双子のCaloとGaldo、Jeanと一緒に育ったLockeは、Chainの死後、 "Gentleman Bastards"のリーダーとして貴族を騙して大金を奪うことを楽しんでいる。

 


Lockeは、痩せ気味だが平均的な身長で、ハンサムでもなければ印象的な顔でもない。神様が、わざと彼を目立たず、誰の記憶に残らない容姿に作ったような感じである。変装が得意で口は達者だが、体力に欠けるので武術は得意ではない。兄弟のように育ったJeanは戦闘の天才なので、それは彼に任せきっている。Chainの元で一緒に育ったSabethaという女性とは恋人関係だったようだが、彼女は2年ほど前に起こった諍いで彼女はCamorrを去ってしまった。Sabethaのことを忘れようとするが、忘れきることができない。大胆なLockeの唯一の弱点がSabethaのようである。

新しい詐欺が順調に進んでいたとき、パワフルな魔術師の種族BondsmagiのFalconerと契約したGray Kingが現れる。知恵では誰にも負けないLockeだが、Falconerの魔術の前にはまったく非力である。

天才的な詐欺師Lockeが率いるGentleman Bastarsは、映画『オーシャンズ11(Oceans' Eleven)』を連想させるユーモアのセンスと壮大さがある。だが、オーシャンズ11よりもずっとダークである。

会話には下品な表現や罵り言葉が多いが、Lychの作り上げたこの世界での独自の表現であり、ユーモアもある。発言する人物たちの階級や育ちが分かるし、その状況も見えるので、著者のクリエイティブさに感心して楽しめる。

冒頭部分で退屈(混乱)するかもしれないが、中盤から展開が速くなり、しかもアクションが続くので、少し辛抱して読み続けてほしい。

 

2.Red Seas Under Red Skies

ややネタバレあり。1巻を読む前で何も知りたくない方は読まないように

Camorrを逃れたLockeとJeanは、Tal Verrarで新しいプロジェクトに取り組む。これまで誰も盗みやイカサマをしたことがない厳しいゲームハウス(カジノのようなもの)のSinspaireで大規模の仕事をやることだった。

彼らは順調に準備を整えていたが、権力争いに巻き込まれ、絶体絶命の危機に陥り、海のことを何も知らないのに航海に出ることになり、そこで海賊に加わる羽目になる。

LockeとJeanの友情が試される巻。全回より豪快なアクションが多い。

 

3.The Republic of Thieves

Lockeの幼なじみで、唯一の愛の対象である謎の女性Sabethaがようやく登場する。二人がどのように出会い、どのようにして恋人になったのか、その経緯が現在進行形のストーリーと交互に語られる。また、Lockeの生誕に関わる秘密も(一部)明らかになる。『オーシャンズ11』的な犯罪アクションの要素は少なく、どちらかというとアメリカの選挙の愚かさを描いた社会風刺的なところがある。

また、新たに暴露された秘密により、以前よりずっとファンタジーの要素が強くなった。新たな方向に向かう「転換期」といえる巻。SabethaとLockeのやりとりはちょっと長引きすぎてくどい感じだが、それでも興味をそそられる。

Jeanの魅力がひきたつ巻でもある。

 

●本書をお薦めしたい読者

ファンタジーを読まない読者層にまで売れている最近のYA(ヤングアダルト)ファンタジーは、世界観が単純。それゆえに分かりやすいという利点はあるのだが、ファンタジーを沢山読む読者にとっては面白くない。その世界の歴史、地理、民族、風習などを何千年にもわたって詳細までしっかりと構築しているファンタジーを読みたい方に、本シリーズはおすすめである。

また、ファンタジーだけでなく、策略やアクションが好きで、好きな登場人物に何が起こるか分からない不安なプロットが好きな方にもピッタリ。

例えば、下記のような本が好きな方…

The Name of the Wind(The Kingkiller Chronicle), A Game of Thrones (A Song of Ice and Fire), Mistborn Trilogy,

 

 

 

 

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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