『The Windup Girl』で主要なSFの賞を総なめしたバチガルピの新作 The Water Knife

著者:Paolo Bacigalupi
ハードカバー: 384ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 0385352875
発売日: 2015/5/26
適正年齢:R(性的シーン、残虐なシーンあり)
難易度:上級レベル(リアリスティックな内容なのでSFが苦手な人にも読みやすいが創作スラングが多い)
ジャンル:SF/スリラー
キーワード:近未来、ディストピア、環境問題、旱魃(かんばつ)、企業スリラー、陰謀、スパイ、ハードボイルド、ラブストーリー

地球規模の気候異変による旱魃で、アメリカの南西部は重篤な水不足に陥っていた。コロラド川流域のネバダ州、アリゾナ州、カリフォルニア州は、川を流れる水の所有権を巡って政治的なかけひきを繰り広げてきたが、川の水量が低下し、平等な分配では生き残ることができない深刻な状況に達していた。
ビジネスウーマンのCatherine Caseがラスベガス(ネバダ州)につくりあげた最新のarcology development(完全環境都市)は、そんな南西部で最も安定した都市のひとつだ。その理由は、Caseに先見の明があるだけでなく、冷徹な手段を厭わないからだ。Water lawyer(水の使用権にまつわる法を専門にする弁護士)を使ってコロラド川の使用権を法的に争いつつ、軍事力、スパイ、暗殺といった汚い手を使ってライバルを破壊する。そういった陰の働きをするのが「Water Knife」と呼ばれる専門家だ。

過去に対策を怠ったテキサス州は壊滅状態で、そこからの難民が多く移住したフェニックス(アリゾナ州)もギャングが取り仕切る無法地帯になっていた。そのフェニックスに、Caseはとどめを刺す攻撃をしかける。ところが、フェニックスでWater lawyerが殺され、ラスベガスを壊滅させるような情報をカリフォルニアが握っている可能性が出てきた。フェニックスで何かが起こっている。それを確かめるために、Caseは最も信頼するWater KnifeのAngelを送り込む。

ピューリッツァー賞を受賞したこともある女性ジャーナリストのLucyは、荒れ果てたフェニックスから壮絶なニュースを発信してきたが、仕事と自分の存在意義に苦しみ続けている。惨殺された友人のwater lawyerの謎を追ううちに、LucyはAngelと出会い、危険な陰謀の渦に巻き込まれていく。そして、この二人と運命の糸でつながっていたのが、テキサスからの難民のMariaだった。

The Water Knifeは、The Windup GirlでSFの主要な賞を総なめし、Ship BreakerでYAのプリンツ賞を受賞したBacigalupiの最新のSFで、これまでのすべての作品と同様に現在すでに問題になっている「環境問題」がテーマになっている。

けれども、The Windup Girlがキャラクターよりも世界観を重視する傾向があったのに対し、本作品は世界観よりキャラクターを重視している感がある。Angelのキャラクターがハードボイルドで、SFというよりもスリラーや犯罪小説のような印象だ。

The Windup Girlより入り込みやすく、設定が理解しやすく、ペースが速くて、アクションもたっぷりで、ロマンスもある。娯楽小説として読みやすいので、SFが苦手な人にもおすすめできる。ただし、創作スラングが多いので、そこで悩む読者はいるかもしれない。

ところで、現実社会では環境問題の否定派が多いテキサスが悲惨な状態になっているのが面白かった。著者のブラックユーモア的な「警告」かもしれない。

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