色彩がないアリスのカラフルな冒険物語 Furthermore

作者:Tahereh Mafi (Shatter Me三部作ほか)
ハードカバー: 416ページ
出版社: Dutton Books for Young Readers
ISBN-10: 1101994762
発売日: 2016/8/30
適正年齢:9−12歳(Middle Grade)
難易度:中級+(センテンスは短く、文法的にはシンプル。ファンタジーの単語で躓く人はいるだろう)
ジャンル:児童書(小学校高学年から中学生)/ファンタジー
キーワード:魔法、冒険、友情、親子の愛、成長物語、クエスト

12歳のアリスが住むFerenwoodの世界には、魔法と色彩が豊富にある。色彩は魔力を示し、肌や目の色は魅力のバロメーターだ。けれども、アリスには生まれつき色彩が欠けている。周囲から無能で醜いと差別されるだけでなく、学校は退学になり、母親からは嫌われ、毎日野原をひとりきりでさまよっている。父だけは自分を無条件に愛してくれたけれど、3年前に姿を消してしまった。

母のために薬用ベリーを採取していたアリスのところに、オリバーという少年が現れた。自分のクエストへの協力を当然のように要求するオリバーにアリスは憤慨した。アリスが学校を退学になったのは、もともと自分をいじめたオリバーのせいなのだ。

だが、オリバーが父親の居場所を知っていることがわかり、彼と一緒に別世界「Furthermore」に旅をすることにする。

Furthermoreは、静かで安全なFerenwoodより自由奔放でエキサイティングだが、それぞれの場所に奇想天外な規則があり、危険だらけだ。しかも、パートナーのオリバーは肝心なことをアリスから隠していて信用できない。アリスは、旅に出たことをじきに後悔するようになる……。

作者のTahereh Mafiは、イラン系のアメリカ人でイスラム教徒でもある。
だが、デビュー作の『Shatter Me』は、主人公と恋愛対象の設定が典型的な白人で、内容も典型的な恋愛三角関係中心のYAファンタジー(SF)だった。それが気に入らなくて続きは読まなかったのだが、小学校高学年から中学生対象の本書『Furthermore』は、とても良くできていて感心した。

主人公のアリスという名前が連想させるように、『不思議の国のアリス』からもインスピレーションを得ているのがわかる。ナルニアの影響もあちこちに感じるが、決してモノマネではない。

『Furthermore』の世界では、肌も目も色があるほうが良いとみなされている。白い陶器のような肌よりも、ニュアンスがあるブラウンの肌のほうが魅力的なのだ。ただし、「みにくい」とみなされているアリスにしても、ブロンドに青い目の「白人」ではなく、表紙のとおり、まったく色がない存在だ。政治的正しさを求めるために現在アメリカの状況が逆転させたわけではない。子どもに「色の魅力」を感じさせつつも、差別の不条理さを教える賢明さがある。

お互いに相手を好きでもなく、尊敬もしていないところからスタートするアリスとオリバーの交流もよくできている。読者は、他人の心を操る才能があるオリバーの自己中心的な言動にうんざりするだろうが、彼自身がクエストで成長し、アリスの視点で読者が寛容になれる。そこが、児童書として成功している。

YAファンタジーは、アメリカで人種の違いにもっとも寛容なジャンルと言われる。ほかのジャンルでは、まだまだ白人以外の著者への熱狂的ファンはつきにくい。だが、YAファンタジーでは、アジア系の作者のサイン会に長蛇の列ができる。並んでいるファンは、ほかのYAファンタジーと変わらない。
ファンが寛容なので、出版社もそうなる。Mafiのように、典型的な欧米の名前ではなく、ヒジャブをかぶっている女性でも、出版社のイチオシ作家として盛大にPRする。

アメリカの人種や宗教への寛容性が生まれていくとしたら、これからの世代が心から楽しめる児童書だろう。そういう意味でも応援していきたい作家のひとりだ。

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