トランプのアメリカに警鐘を鳴らすジョージ・タケイのグラフィックノベル They Called Us Enemy

George Takei (著), Justin Eisinger (著), Steven Scott (著), Harmony Becker (イラスト)
ペーパーバック: 208ページ
出版社: Top Shelf Productions
ISBN-10: 1603094504
ISBN-13: 978-1603094504
発売日: 2019/7/16
適正年齢:PG(何歳からでも)
難易度:中級レベル(グラフィックノベルなので説明が少ない。わからない単語があってもイラストで想像できることが多い)
ジャンル:回想録/グラフィックノベル(アメリカの漫画のようなジャンル)/ノンフィクション
キーワード:第二次世界大戦、日本人収容所/ジョージ・タケイ/人種差別

日本のテレビで1960年代に『宇宙大作戦』として放映された『スタートレック』が画期的だったのは、ハリウッドが白人の俳優しか使わなかったあの頃に、黒人女性を含む多様な登場人物を起用したことだ。当時小学生だった私はこの番組のファンだったのだが、ジョージ・タケイ扮するヒカル・スールー(日本語吹き替えでは加藤)には理屈抜きの誇りを感じたものだった。日本に住む私だけでなく、アメリカでも日系人であるジョージ・タケイが俳優として有名になったことは多くのアジア系アメリカ人に少なからぬ影響を与えた。

ジョージ・タケイは、独自のユーモアあふれるソーシャルメディアで若い世代にもフォロワーを増やし、今では社会活動家としても知られるようになっている。

タケイに興味がある人は、彼が第二次世界大戦中に日系人収容所に収容された体験を持つことを知っているし、彼の体験を元にしたミュージカル『Allegiance』で主役を演じるタケイを観ているかもしれない。彼らは、日系人収容所がどれほど非人道的なものだったのかをすでに想像しているし、その歴史を繰り返してはならないとも思っていることだろう。

だが、大半のアメリカ人はそういったことを知らないし、興味もいだかない。
だから、アメリカで今同じような過ちが目の前で起こっているというのに、何も感じないのだ。

現在アメリカで起こっている問題のひとつが、近隣の中南米から押し寄せてきてる「亡命希望者(asylum seeker)」たちだ。国境で幼い子どもたちが親から引き離され、檻のような収容所に入れられているそのコンディションは最悪で、アメリカに着いてから死亡した子供たちもいる。

多くのメディアが報じているが、保守系のフォクスニュースのある司会者が「我々の子供じゃない」と本音を漏らしているし、それに眉もひそめないアメリカ人が実はかなりいる。

この「我々の子供じゃない(から、何が起こっても知ったことではない)」という態度は、「我々と同じではない者を自分と同じ人間とみなすことはできない」という冷酷な無関心に変換しやすい。その冷酷な無関心がある程度蔓延すると、第二次世界大戦のナチスドイツによるユダヤ人の大虐殺のようなことが実際に起こる。ナチスドイツだけではなく、日本でも捕虜に残酷な人体実験を行った731部隊などの例がある(私の恩師のひとりが731部隊の一員で、本人が『私は戦犯として処刑されても不思議はなかった』と私に語ってくれた。彼の苦悩を知っているので、この史実が嘘だという反論は受け付けない)。

こういったことに最も敏感なのが子供たちだ。

私は7月19日現在までに民主党大統領候補16人のイベントに言って直接会い、話しを聴いた(明日17人めに会う予定)。アメリカでは、それらに参加して候補に質問する子供も少なくない。これらの政治イベントでの子どもたちの質問の多くが、国境で親から引き離されて檻のような収容所に入れられている「亡命希望者」と「不法移民」の子供たちについてだった。

そんな子供たちの姿をニュースで観たアメリカの子供たちは、肌の色で「我々の子供ではない」とは思わず、「あれは自分かもしれない」と感じている。だから、候補らに会って、「あなたは、収容所をどうするつもりなのですか?」「あの子たちに何をしてあげるつもりですか?」と質問するのだ。

質問された候補全員がしっかりと受け止め、回答していたが、その中で最も真摯な態度で対応したのがエリザベス・ウォーレンだった。彼女は、質問者の少女とその親に「イベントの後でゆっくり話を聞かせてください」と言い、実際に終わった後で彼らと話し合ってフロリダのホームステッドにある巨大な不法移民収容所を訪問すると約束した。そして、1ヶ月後に本当にその約束を果たしたのをニュースで観た。

ウォーレンとその他多くの民主党候補の考え方は、「彼らが命をかけてまで幼い子どもを連れてこの国に来ようとするのは、自分の国で生きるのが危険になっているから。まずはそれらの国に支援とプレッシャーの両方で対処しなければならない。一方で入国してきた移民全員を人道的に扱う。親と子は決して離れ離れにしない。わが国は亡命者を受け入れる法があるのだから、亡命希望者は「犯罪者」ではない。正当に対処するべき」というものだ。

ジョージ・タケイがコミックライターやイラストレーターとのコラボレーションで3日前に出版したグラフィックノベルの『They Called Us Enemy(彼らは私たちを敵と呼んだ)』は、歴史をすっかり忘れているアメリカ人に「同じ過ちを犯してはならない」と思い出させるものである。そして、「あいつらは、我々とは違う」という発想から「だから人間として同じ尊敬を持って扱う必要はない」に変化やすい大衆心理が与える残酷な影響を想像させようとしている。

自分が何も悪いことをしていないのに、社会から「恥」を与えられた者は、あたかもそれが自分の中から生まれたものであるかのように屈辱を受けて恥じ入る。その体験を持つ者は、自由になった後でも一生その辱めを忘れることができない。それについてもタケイは書いている。

私にとって印象深かったのが、大統領候補アドレー・スティーブンソンの選挙事務所でボランティアをしていたタケイ青年がエレノア・ルーズベルト元大統領夫人と会ったシーンだ。彼の父親は具合が悪いと言い訳をしてわざと席を外していたのだが、その理由は、日系人を収容所に入れる命令を下したのがルーズベルト大統領だったからだ。

働いてお金を貯めて買った家と所有物、そして自由を奪われた後でも民主主義を強く信じていたタケイの父だが、自分たちの尊厳を奪った大統領の妻と握手することだけはどうしてもできなかったのだ。

淡々としたイラストと文章だが、グラフィックノベルになったことで、これまで日系人収容所の歴史を知らなかったアメリカ人にも届くかもしれない。

2件のコメント

  1. 渡辺さんのツイートからたくさんのことを学んでおります。洋書ファンクラブにも入りました。渡辺さんの文章を読んでから、今まで自分が抱えていた訳の分からない抽象的な事柄が、具体的な言葉となって納得できるようになりました。なぜ?どうしてこういうことが?ということに対して向き合って考えていく所存です。ありがとうございます。

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