2020年のうちに書こうと思っていた本のレビューの続き、vol.3です。
vol.3は「前評判が良くて期待したのに、期待はずれだった」のカテゴリに入る本です。
When No One is Watching
作者:Alyssa Cole
ジャンル:ミステリ
難易度:7/10
私の評価:3.0
ニューヨーク市の地価が高騰し、ブルックリンもジェントリフィケーションで変わってきた。黒人が作り上げてきたコミュニティに金持ちの若い白人たちが多く住み着くようになり、コミュニティは急速に変わりつつあった。ここにずっと住んでいる黒人女性のシドニーは、近所の昔からの知り合いがどんどん姿を消していることに気付いた。その真実を暴こうとするが、それは危険な試みだった……。2020年の注目の作品だったし、“Rear Window meets Get Out”という宣伝文句だったのでとても期待していた。どちらの映画も好きだったので、絶対に気に入ると思っていたのだ。ところが、途中でミステリがスプラッターになり、そしてロマンス小説になってしまう。いずれでも良いし、混じっていてもいいのだが、バラバラでまとまりがないのだ。主人公の女性の言葉遣いや性格も好きになれなかったのも読書体験をしんどくした。それでも楽しめる読者はいると思うが、多くの場所で今年のベストのリストに入っているのが納得できない小説だ。
Monogamy
作者:Sue Miller
ジャンル:現代小説
難易度:7/10
私の評価:3.0
ボストンでよく知られた書店の経営をする夫と、写真家の妻のカップルは、この界隈のアート愛好家の間では有名なカップルだった。その夫が亡くなり、妻は初めて夫が不倫をしていたことを知る。自分にぞっこん惚れ込んでいたと思っていた妻は、夫の何を知っていたのだろうかと悩み、おちこむ……。こういうテーマの小説は数え切れないほどある。2020年の現代に出版するのであれば、なにか新しいものがあるに違いない。Sue Millerはボストン在住のベテラン作家であり、文章力もある。そのうえ、このMonogamyは今年の話題作のひとつだ。だから、期待して読んだのだが、何も新しいことはなかった。それに、夫にも妻にもあまり共感できないし、終わり方もそう納得はできない。小説としてはうまくできているので3.0評価を与えるが、なにかを学べる作品ではないと思った。
When We Were Vikings
作者:Andrew David MacDonald
ジャンル:文芸小説
難易度:7/10
私の評価:3.0
母親の依存症が原因で知的障害を持って産まれた21歳の女性Zeldaは、ヴァイキングが大好きで、ヴァイキングのしきたりに従って生きている。Zeldaの保護者は兄のGertだが、頼りになるようで頼りにできないところがある。兄は賢いのにまともな仕事に就かずに、手っ取り早く金儲けをしようとして怪しい人々と関わりになっている。Zeldaもそれに巻き込まれてしまうが、ヴァイキングの勇敢さで戦おうとする……。作者にとってデビュー作だが、刊行前から2020年の話題作になっていた。私も期待して読んだが、読みすすめるにつれて違和感が強くなってきた。この小説では、知的障害がある人のセクシュアリティも扱っているのだが、うまく扱えているのかどうか疑問に感じた。いろいろな意味で首をかしげることが多く、しかもまとまりがない。どう理解していいのか悩んでしまう本だった。努力に対して3.0を与えるが、この作家の次の作品を読みたいと思わせる読書体験ではなかった。
From Blood and Ash
作者:Jennifer L. Armentrout
ジャンル:パラノーマル・ファンタジー(ロマンス)
難易度:6/10
私の評価:1.0
何年か前にBook Expo Americaで取材したティーンの少女から進められてこの作者の作品をいくつか読んだが、いずれも好きになることはできなかった。それで今まで読まなかったのだが、Goodreadsのロマンス部門でwinnerになっていたので読んでみることにした。
中身は「これがロマンスだと少女たちに思い込ませるのは有害じゃないか」と思わせるものだ。ヒーローは表層的にはヒロインと同い年くらいの若者だが、実際にはずいぶん年上(ネタバレなので詳しくは書かない)である。ヒーローのヒロインに対する扱いは、心理操作と性的虐待でしかない。これにうっとりしている若い女性読者にはため息ではなく、危機感すら感じてしまう。人物造形も稚拙で、作者の人生体験の薄さを感じる。ロマンス部門にはこれより優れた文章や心理分析が入ったものがあるのに、これを選んだ読者が多いということに絶望感すら覚えた。私は同様の理由でSarah J Maasも好きではないのだが、Armentroutも「どんなに売れていても、読まない作家」のカテゴリに永久に入れさせてもらうことになりそうだ。
Catherine House
作者:Elisabeth Thomas
ジャンル:文芸小説
難易度:8/10
私の評価:1.0
Catherine Houseは、ペンシルヴァニア州の寂れた森の中にある有名な寄宿制の学校だ。この学校の出身者には、著名な作家、最高裁判事など有名人が数多い。そのうえ、入学を許可された者は学費を払う必要がない。しかし、ルールも厳しかった。この学校にいったん入学したら、3年の間は、外出することも、外部と連絡を取ることも許されない……。
発売される前から前評判が高く、出版社が力を入れていることがわかるデビュー作だった。表紙も美しいし、私もかなり期待していた。ところが、まったくの期待はずれだった。謎めいた文章は好きだが、これは「馬鹿げている」と言いたくなるようなところが多い。それに登場人物にしても、プロットにしても、まったく魅力がないのだ。途中で、「私は時間の無駄遣いをしている」と感じたので、読み終えるのをやめた。そういう意味で、1つ星評価にするしかなかった。