作者:Angie Thomas
シリーズ名・関連作品:Hate U Give
Publisher : Balzer + Bray
発売日:January 12, 2021
Hardcover : 368 pages
ISBN-10 : 006284671X
ISBN-13 : 978-0062846716
適正年齢:PG14(中学校後半から高校生対象)
難易度:6 (文章はシンプル。ただし日本の学校では習わないスラングが多いので、すべてを理解しようと思わずに全体像把握を重視してリラックスして読むのが肝心)
ジャンル:YA/青春小説
キーワード/テーマ:アフリカ系アメリカ人、思春期の葛藤、男らしさ、人生の意義、コミュニティの意義、家族の意味、恋愛、自分の価値
Hate U Giveの主人公Starrの父Maverickは、娘に多くの価値観を教えた信頼できる父親であり、コミュニティを支える人格者として描かれていた。Angie Thomasの最新作は、そのMaverickを主人公にした前編だ。
Marverickは高校卒業を目前にした17歳だったが、将来の夢どころか明日の希望さえ抱けない混乱状態の中で生きていた。ドラッグ売買で投獄されている父の紹介で出会ったギャングのリーダー格のKingと仲良くなり、ドラッグ取引で金を稼いでいる。シングルマザーとしてMarverickを育てている母は地道に生きることを教えようとしているが、周囲に成功例も父親像もない彼にはそういう可能性は見えない。
ある誤解が原因で好きだったガールフレンド(Starrの母)からフラれてやけになっているMarverickに、Kingは気晴らしになるよう自分がセックスの相手にしている少女を紹介する。その少女が妊娠して出産し、DNA鑑定でMarverickが父親だとわかる。母である少女は父親が判明してからはMarverickの元に生後3ヶ月の息子を残して遊び回っている。Marverickは赤ん坊の世話をしながら高校に通い、生活費を稼がなければならなくなる。雑貨店でアルバイトをしているが、その賃金では子育てに必要なものも買えない。
そんなとき、好きだったガールフレンドとよりを戻すチャンスが来る。けれども彼女まで妊娠させてしまう。周囲の者はMarverickの愚かさを責めるだけで救ってはくれない。収入が必要になったMarverickはやめると決めたはずのドラッグ売買に戻ることにする。
Hate U Giveでの思慮深くてコミュニティから尊敬されているMarverickを知る読者は、無責任で自己破壊的な17歳のMarverickに驚くことだろう(足し算をすると、あの本でのMarverickは33歳くらいだということになる。若い!)。作者Thomasの凄腕を感じるのがここだ。
裕福な環境で生まれ育った者には、周囲に成功例やステップ・バイ・ステップの指導をする者がいる。彼らにはそれがない環境がどれほど希望のない状態なのか想像できないだろう。ThomasがMarverickの視点を通して伝えているのは、そのリアルな葛藤だ。家庭でお手本になってくれる父親不在で育った少年は、「立派な男になりたい」という漠然とした意欲があっても実際にイメージすることができないし、そこに到達する手段もわからない。彼は自分に想像できる範囲で幼い息子やこれから生まれてくる赤ん坊に責任を持とうとするのだが、選択肢が少ないのでわかりやすい方法を選んでしまう。母の視点で「なんでそんなことするの!」としかりたくなることもあるが、そういった少年の言動のリアルさもこのYA小説の読みどころだ。
「前編」の良いところは、読者には明るい未来が待っていることがわかっていることだ。だから安心してMarverickの失敗や葛藤を読むことができる。
このYA小説の素晴らしさは、コンクリートの中に咲くことができる薔薇のように、どこからもたくましくて美しい花が育つことが可能だと教えてくれることだ。それをMarverickに教えてくれたMr. Wyattが光っていた。