がんサバイバーの闘病と復帰を正直に語った回想録 Between Two Kingdoms

作者:Suleika Jaouad
Publisher : Random House
刊行日:February 9, 2021
Hardcover : 368 pages
ISBN-10 : 0399588582
ISBN-13 : 978-0399588587
適正年齢:一般(PG 14)
難易度:7
ジャンル:回想録
キーワード/テーマ:急性骨髄性白血病、闘病記、がんサバイバー、復帰の苦悩、愛情、友情、家族愛、ロードトリップ

プリンストン大学卒業後の進路に迷っていた若い女性Suleikaは、フランス語のネイティブスピーカーであることを就職に活かし、念願のパリでジャーナリストとしてキャリアをスタートした。パリに行く寸前に出会った青年Will(仮名)とメールをやり取りするうちに互いへの思いが深まり、パリで2人で一緒に住み始めた。エキサイティングな生活だったが、大学時代に始まった不可解な症状が悪化し、フランスの医師の薦めでアメリカに戻って検査と治療を行うことになった。「念の為に」受けたバイオプシーで急性骨髄性白血病の診断を受け、長期生存の可能性は35%だと言い渡された。

ジャーナリストになるというSuleikaの人生の目標は中断され、生き延びることが唯一の目標になった。家族とWillの献身的な援助を受けながらもSuleikaの心は暗く沈み込んでいく。人生に意義を見出して自分を救うために、Suleikaはニューヨーク・タイムズ紙に企画を提案してWell blogの連載”Life, Interrupted“を始めた。この連載が有名になり、彼女は闘病しながら講演をしたり、メディアに出演したりするようになった。しかし、厳しい闘病は患者本人だけでなく周囲の身近な人々の人生も中断させてしまう。キャリアを中断して看病に専念していたWillが自分の人生を取り戻したがっているのをSuleikaは感じる。

下は、当時のビデオだ。

この後Suleikaは寛解することができたが、病を通して誰よりも親しくなった友人の多くは戻らぬ人となった。そして、一生を共にすると思っていたWillとは傷つけあって別れることになった。

生と死という2つのkingdomの間で5年も過ごしたSuleikaは、生のKingdomにどう戻っていいのかわからない。そこで、ニューヨーク・タイムズ紙に連載していた時に受け取った手紙の中で心に残った人々を訪問することに決めた。それまで車の免許すら持っていなかったSuleikaは、知り合いに運転の方法を教わって免許を取り、友人の車を借りて愛犬オスカーと米国一周のロードトリップにでかけた。がんのサバイバーである教師、国家や政府より銃を信じるサバイバリストの兄弟、死刑囚など手紙だけでしか知らない人々に1人で会いに行くのは無謀なことだったが、その体験からSuleikaは再び生きることを学んでいく……。

彼女は2019年にTEDトークで体験を語っている。

この回想録の優れたところは、闘病中の患者の正直な感情を伝えているところだ。献身的に尽くしてくれているWillが時々自分のキャリアや「休憩」を優先することに対する憤りは、健康な読者にとってはワガママに感じるかもしれない。私も時々「ここまでしてくれる人はいないよ」とSuleikaの両親の視点になってしまった。けれども、良い結果が得られる確約なしに激しい痛みと嘔吐と毎日闘い続けている患者にとって、他人の気持ちを考えられる余裕などはないだろう。ことに、発病当時に彼女はまだ22歳の若さだったのだ。この本に書かれているSuleikaの気持ちは、その立場にならないと絶対にわからないことだと思った。でも、彼女はロードトリップのさなかにWillの視点をようやく理解する。

Willとの出会いから諍いと別れに至る関係の変移をSuleikaが正直に書いているのは、当時伝えられなかった感謝と謝罪でもあると思った。回想録で自分を聖人のように書き換えなかったSuleikaの正直さを評価したい。

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