作者:Elle Cosimano
Publisher : Minotaur Books; 1st edition
刊行日:February 2, 2021
Hardcover : 368 pages
ISBN-10 : 1250241707
ISBN-13 : 978-1250241702
適正年齢:一般(PG14)
読みやすさ:7
ジャンル:ミステリ/ユーモア
キーワード:離婚、シングルマザー、売れない作家、スランプ、暗殺者、殺人、マフィア、コメディ、ロマンス
ロマンチック・ミステリー作家のFinlay Donovan(フィンリー・ドノヴァン)の人生はストレスだらけだ。夫の浮気が原因で離婚したのだが、裏切りを知ったときに逆上して浮気相手にスープをぶっかけて車を傷つけたために賠償金を取られて貯金が底をついてしまった。新刊のほうも、前払いの金を使い果たしてしまったのに一文字も書いていない。言い訳をするために担当エージェントに会うことにしたのだが、いつもの時間になってもベビーシッターが来ない。なんと元夫が「金の無駄遣いだ」と勝手にベビーシッターを首にしたらしい。
緊急事態の連続で待ち合わせの場所に間に合わなくなったフィンリーは、エージェントに電話して「パネラ・ブレッド」というサンドイッチ店に場所を変更した。でもその後すぐに後悔した。それは、元夫の浮気相手にスープをかけて店長から出入り禁止にされている場所だったのだ。覆面作家としてのブロンドのかつらと大きなサングラスの変装をしたフィンリーは見つからないよう祈りつつエージェントに会う。
書いてもいないミステリのプロットをエージェントに説明していたところ、隣に座っていた女性がそれを誤解したらしい。フィンリーはプロの暗殺者だと誤解されて「仕事」を依頼されてしまう。もちろん断るつもりだったが、作家としての好奇心が旺盛なフィンリーは、いつもの変装で女性の夫を観察しに行く。
依頼者の夫がデート相手の女性がトイレに立ったときにシャンパンに薬を盛るのを見たフィンリーは、男性に近寄ってグラスを交換することに成功した。ところが薬が効きすぎてしまったようで男は朦朧としてくる。犯罪者と疑われる可能性にパニックを起こしたフィンリーは男を店の外に導きだし、自分のミニバンに押し込んで彼を自宅に送ろうとする。でも、電話をすると男の妻は「ぜったいに家につれてくるな」と言うので自分の家に連れ帰ってとりあえず車をガレージに入れた。これからどうするか考えるつもりでいたのに、誰もいないはずの家にベビーシッターがいる。ベビーシッターをなんとか追いやってガレージに戻ったら男は息をしていない。無駄な蘇生をしているところをベビーシッターにみつかってしまう。フィンリーは「私は殺し屋ではない。金は受け取らない!」と言うが、電気代が払えずに電気を止められるほどお金に困っていること、子供の養育権を夫と婚約者(浮気相手)から奪われそうになっている現状と男がすでに死んでいることを冷静に指摘され、仕方なく2人で死体を処分することにする。
どうやら死んだ男はロシアのマフィアに関わりがある人物らしい。フィンリーの仕事に満足した妻の紹介で、マフィアの大物の妻から次の仕事を依頼される。事件の捜査でフィンリーの協力を求める刑事とは恋愛関係になりそうな雰囲気もあるのだが、彼に本当のことは言えない。ガレージで男を殺した本当の犯人を探したいのに、周囲の人はフィンリーをほうっておいてくれない。状況はどんどんややこしくなっていく……。
救いようがないほど人生に打ちのめされているシングルマザーのフィンリーが、殺し屋と間違えられるところから人生を取り戻し、ベストセラー小説まで書いてしまう。その展開がFinlay Donovan is Killing it(フィンリー・ドノヴァンはすごくうまくやっている)であり、殺しと二重の意味が活きているタイトルがいい。
ベビーシッターとフィンリーのやりとりも楽しいし、マフィアの妻からの褒め言葉や死体を掘り起こすシーンも爆笑だ。他人の前で読んでいると変な人だと思われるからそのあたりは要注意だ。
作者のCosimanoはYAミステリでエドガー賞の候補になったこともあるベテランだが、フィンリーのように「誰も読まない本を書き続けている」という気持ちになったことがあるのかもしれない。そして、フィンリーのように、この小説が大ブレイクになって人気作家になる予感がする。
次作がすでに楽しみだ。