作者:Megan Abbott
Publisher : G.P. Putnam’s Sons
刊行日:August 3, 2021
Hardcover : 352 pages
ISBN-10 : 059308490X
ISBN-13 : 978-0593084908
適正年齢:成人(セックスシーン描写レベル:2)
読みやすさ:8
ジャンル:心理スリラー
キーワード、テーマ:家族ドラマ、バレエ、性的虐待、偽り、裏切り、
その他:性的虐待のトリガー警告! TODAY Show #ReadWithJenna Book Club Pick
いつも運転中に聴くNPRラジオで「ボストンバレエ団の元プリンシパル・ダンサーとその夫が年少のダンサーへの性的虐待で起訴された」というニュースを聞いてびっくりした。まるで、最近読んだ心理スリラーThe Turnoutを連想させるような事件だったからだ(連想しただけで、事実関係は異なる)。事件についてはCNNの日本語版のニュースにもなっているようだから、詳しくはそちらを読んでほしい。
女子体操でも大きな社会問題になっているが、スポーツにせよ芸術にせよ宗教にせよ、一定の大人が権力を持つ閉じた世界ではターゲットになった子どもには選択の自由も逃げ道もない。The Turnoutは上記のニュースとは状況が異なるが、同様のテーマを扱っている小説であり、アメリカでは超話題作だ。ゆえに、私はあまり好きではなかったのだがご紹介することにした。
地元で有名なバレエ学校を経営するカリスマダンサーの母からトレーニングを受けたDaraとMarieのDurant姉妹は、両親が交通事故で死亡してから一緒にバレエ学校を経営している。もうひとりの経営者のCharlieは姉のDaraの夫で、母が見込んで子どもの頃から家族のように暮らしてきた男性ダンサーだった。怪我で踊れなくなったCharlieは、現在では学校の経営面を担当している。
両親が亡くなったときにまだ16歳だったDaraとCharlieは、地元のバレエ団を経営する母の親友の采配で結婚し、そのまま同じ家で3人で暮らしてきた。けれども、最近になって妹のMarieは家を出てダンススタジオの3階の物置に泊まっている。
実用主義でしっかりしているDaraは厳しすぎて生徒や親から怖がられているところがある。年少の子どもを担当するMarieは優しいので子どもたちに慕われているが、いつも夢見心地で無責任だ。
毎年、生徒と親が待ちに待っている最大のイベントであるNutcracker(くるみ割り人形)のシーズンがやってきた。そのさなか、Marieが寝ている間に使っていたヒーターでスタジオに火事が起こり、修理が必要になった。それが引き金になり、Durant家は長年蓄積してきた秘密の重みで崩壊しはじめる……。
Oprpah Daily、New York Times、TIME、Washington Post、The Boston Globe、Wall Street Journalなど数え切れないほどのメディアで「2021年の夏の推薦読書」に選ばれた作品であり、テレビ番組のTODAY Showでジェナ・ブッシュのブッククラブ推薦書にもなっている話題作だ。通常の心理スリラーのようなシンプルな文体ではなく、たくみな表現力で現実と想像の世界が入り交じるような独自の雰囲気をつくりあげている。だが、性的虐待を受けた人のトリガーになりそうな性描写や、加害者(やその候補)を喜ばせそうな被害者の発言が受けいれがたく、私にとってはまったく楽しくない読書体験だった。
読んでいたときには「バレエの世界をこんなふうにせクシャライズして醜く描くのはバレエをやっている人への侮辱では?」と嫌な気分になったのだが、ボストンバレエ団の元プリンシパル・ダンサーのニュースを聞いて、「私達が知らないだけで、性的虐待の温床になっているのかも」と思い直した。
被害者が加害者になる悪循環も想像させる問題作ではある。