作者:Jodi Picoult
Publisher : Ballantine Books
刊行日:November 30, 2021
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 1984818414
ISBN-13 : 978-1984818416
対象年齢:一般(セックスシーン描写レベル:1)
読みやすさ:7
ジャンル:現代小説
キーワード:Covid-19、パンデミック、人間関係と人生の見直し
名門オークションハウスのSotheby’sで働く29才のDianaは、伝説的ミュージシャンの未亡人Kitomi Ito(ヨーコ・オノがモデルというのは明らか)にトゥールーズ=ロートレックの名画をオークションにかける特別なアイディアを提供して気に入られ、出世への第一歩を踏み出したところだった。一緒に住んでいるボーイフレンドのFinnはニューヨークの病院に勤務する外科レジデントで、3月14日から一緒に旅行するガラパゴス諸島でプロポーズされることを予期していた。ニューヨークではCovid感染症の不安が広まり始めていたが、まだ現実感はあまりなかった。
2020年3月13日の金曜日はDianaにとって最低の日になった。感染が広まっていることを理由にKitomiがオークションにストップをかけ、FinnはNYに残って医師としての義務を果たすことに決めたのだ。「でも君は行くべきだ」というFinnの説得でDianaは単独でガラパゴス諸島に向かった。
ガラパゴスに到着したもののDianaのスーツケースは行方不明になり、イサベラ島に到着したところで島は閉鎖になってしまう。予約していたホテルは閉鎖されて泊まれないし、島を去ることもできない。困っていたところを地元の老女の親切心に救われ、彼女の孫娘、そしてその父親と親しくなっていく。島のネット環境が悪いために電話は通じず、Wifiもたまにしか通じない。Covid患者の治療で疲弊するFinnからのemailが時々届くだけでDiannaからの電話やメールはまったく届いていないようだ。驚異的な自然の中でのゆったりした生活に馴染んできたDianaはニューヨークでの自分の生活や仕事について疑問を抱くようになる……。
この小説の前半はあまり出来が良くないロマンス小説のようであり、何度か読むのをやめようと思った。けれども「Jodi Picoultのことだから、何か驚きの展開があるはずだ」と思い直して読み続けた。半分終えたころにようやくその「驚きの展開」がやってきた。ここまで我慢して読んだ読者の評価が大きく分かれるのは、ここからだと思う。
Covid感染症のパンデミックは多くの人にとって人生や人間関係を大きく変えた歴史的な大事件である。隔離やソーシャルディスタンスによる心理的なインパクトは現在も続いている。その時代の大きな社会問題を小説として描くのを得意にしているPicoultなので、このWish You Were Hereで描こうとしたこともわからないではない。Goodreadsの読者評価も高い。しかし、私にとってはフラストレーションがたまる小説だった。
2020年3月13日は私にとっても記憶に残る日だった。大きな区切りになる特別な誕生日として、その数ヶ月前から夫がシェフを雇って特別なパーティを企画していたのだ。娘はリストにある招待客にコンタクトしてくれていた。夫と娘が私のために誕生日パーティをしてくれるのは人生で初めてのことであり、いつも2人のために企画してあげるばかりでお返しをしてもらったことがない私としては「ようやく…」という感じだった。でも、その特別な誕生日パーティは、パンデミックのためにキャンセルになってしまった。
また、私の娘はDianaのボーイフレンドのFinnのようにCovid患者を治療する立場にいる救急医であり、ワクチン接種を2回終えるまでは自分の娘であっても直接会ってハグしたりできなかった。そして、Dianaのように私もパンデミック中に母を亡くした。でも、私以上に過酷な体験をしている人たちは世界中に数え切れないほどいる。それがわかっているから、「無事に生きているだけでありがたい」「今日を大切に生きよう」というふうに気持ちを切り替える努力をしている人がかなりいると思う。
私はこの主人公と共通する体験もしているのだから、感情移入をしても不思議はない。けれども、私はDianaにまったく共感できなかった。むしろ彼女の身勝手な考え方と言動に呆れ返り、怒りを覚え、真摯にパンデミックに対応している周囲の人々に同情してしまった。
読後に残ったのは、パンデミックにおける人間の心理への理解ではなく、Dianaが今後どうなっても正直どうでもいいという気分だった。それはPicoutの目指した効果ではなかったと思うので、この作品は失敗作だと思った。好きな作家なので残念だ。