
作者:Miranda July
Publisher : Riverhead Books
刊行日:May 14, 2024
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0593190262
ISBN-13 : 978-0593190265
対象年齢:成人(R、セックスシーン描写レベル:5)
読みやすさレベル:8
ジャンル:現代小説
テーマ、キーワード:閉経前の女性の心理、性的冒険、ユーモア、情事
本の中には、ほとんどの人が「良くも悪くもない」と3つ星レビューをするものや、星5と星1のレビューに分かれるものがある。2024年にアメリカで売れた話題作のひとつAll Foursは典型的な後者の例だ。「面白い!大好き!」という読者と「くだらない。大嫌い!」という読者に分かれるタイプの文芸小説である。
結論から言うと、私は後者の読者だった。その理由を説明しようと思う。
作者のMiranda July(ミランダ・ジュライ)は、映画監督、俳優、パフォーマンス・アーティスト、作家…と多くの分野で活躍してきた多才なクリエイターである。私は彼女の作品にこれまで触れる機会がなかった(彼女のスタイルと私が好きな分野とがかけ離れていたからではないかと思う)。そういうこともあって、あちこちで見かけるこの小説を手に取った時には前情報も先入観もなかった。
主人公は閉経を目前に控えた45歳の既婚女性で幼い子どももいる。夫婦ともにクリエイティブな職業であり、冒頭の3つの章からは自伝的小説の印象を強く受ける。仕事も子育ても対等かつ平等な筈なのだが、夫の仕事のために最近は主人公が子育てをかなり引き受けてきた不満がある。仕事でロサンゼルスからニューヨークに行くことになった主人公は、あるパーティでの夫と友人の会話をきっかけに、飛行機ではなく車で単独ロードトリップをすることに決めた。2週間半も一人きりになるのは子供が生まれてから初めてのことだ。だが、主人公はドライブを始めてすぐにガス欠に気づいて高速を降り、ロードトリップをやめてモーテルに住み着き、そこでランダムな情事を始めるのである。
露骨なセックスシーンやセックストークが多いのだが、「セクシー」ではなく”Yuck”という英語の表現がピッタリである。女性の性的開放を応援したくなるものではない。
また、主人公は他人を分析して”icky(気持ち悪い、不愉快)”とか安易に批判するのに、自分の言動が実はickyであるということに関してはまったく客観的な視点を持っていない。彼女の内声のコメントの数々には笑えるところもあるし、娯楽として読めるところもあるが、あまりにもナルシスティックなので呆れたり、疲れることのほうが多い。
途中で気付いたのだが、彼女は私の親友の母親に似ているのだ。地方のみで有名な舞台俳優の母親は美人だがナルシスティックで、80代後半になった今でも自分が話題の中心でないと機嫌を損ねる。親友の義母の葬式では参列者たちが自分に注意を払わずに亡くなった女性の素晴らしさを次々と語るのが気に入らなくて途中で立ち去ってしまい、孫息子のガールフレンドの家に招かれた時には、裕福でインテリの家族に嫉妬してずっと膨れ面でいたらしい。自分の老いを認めるのが嫌で、80歳後半でも自分以外の女性がちやほやされるのが許せない。家族旅行のフライト直前に母親がマリファナ入りのグミキャンディを持っていたことに気づいた親友が「セキュリティを通る前に捨てなさい!」と言ったら所持していたグミを全部口に入れて飲み込んでしまい、フライト中ずっとハイだったとかいうエピソードの数々は他人事だから笑えるし、「小説にしたらいいのに」と思えるほど面白い。けれども、1人称の語り手の小説は間接的な実話よりしんどい。
1人称の語り手の場合には、距離がないからだ。頭の中に入り込むことを強制される。自分とは全く異なる人物の人生を「ほう、こういう考え方や生き方があるのか」と楽しめる場合と、「なんて不愉快なんだ。早く逃げ出したい」と気分が悪くなる場合がある。この本は、前者と後者に分かれるタイプの本であり、その違いが星5つ評価と星1つ評価になっている。
実は、楽しんでいる読者には男性が多い。自分とは全く異なる条件のヒロイン(閉経前の女性)のぶっ飛んだ考え方や性的目覚めや冒険は、自分自身からかけ離れているためにコメディとして楽しめるのではないかと思うのだ。
しかし、主人公に近い世代やその上の世代の女性の受け止め方は、男性や若い女性の読者とは少々異なると思うのだ。主人公の内声には結婚して子育てをした女性なら必ず体験する葛藤もある。けれども、実際にそれらを体験した人は、自分の考え方や生き方と比較した時に、ユーモアよりも不快さを覚えるのである。私もそうだった。「なぜ異性からまだ性的な魅力を持っているとみなされることがそう重要なのか?その歳まで生きたのなら、人生でもっと重要なことがあると学んだのではないか?」と呆れ返ってしまう。星1つや2つの評価をした人の多くが使っている表現が”icky”というのは、こういうところにあるのではないかと思う。
ということで、読み手によって感想が分かれる本なので、自分がどちらの読者になるか興味がある人は試してみるといいかもしれない。けれども「買って損をした」という読者がある程度いることは明記しておきたい。

