洋書初心者への「失敗しない完読テクニック」その4

内なるミーハー心に素直に従おう

 

以前お話したように、読めば読むほど洋書の完読は簡単になってきます。

そのうちに外国語で読んでいることすら忘れてしまうでしょう。沢山読むためには、「読まねばならない」という本ではなく、「読みたい!」というパッションを与えてくれる本をみつけることです。何度も繰り返しますが、「知っている単語数がいくつだからこの程度の本」、という型にはまった考え方はやめましょう。(平均的アメリカ人よりも本を速く読む自信がある私ですが、今でも日本の大学入試では不合格になると思います)。

それよりも、内なるミーハー心に従って本を選ぶことのほうが大切です。でも、ミーハーになりきることは簡単なようでけっこう難しいものです。

他人の目を気にしてしまうのが人間の性ですから。

 私 が学生時代に「砂の女」と「死霊」(もちろんいずれも日本語)を読んだ理由は、何を隠そうそのころ好きだった男性が読んでいたからです。アガサ・クリスティばかり読んでいる女だとは思われたくなかったわけですね。「死霊」シリーズは本棚の飾りになり、「砂の女」には不愉快にさせられました。

約20年前に「百年の孤独」と「バラの名前」を英語で読んだのも同じような理由です。だいたい、スペイン語とイタリア語で書かれた本の英訳を読むこと自体が馬鹿げているのですが、そのころ毎週のように英国風紳士的なデートに誘ってくれる素敵な英国人男性が「君はこれを読むべきだ」と言ったら馬鹿げているようには感じないのが不思議。

The Name of the Roseはミステリーなので面白かったですけれど、百年の孤独は私の英語のレベルでは苦痛そのものでした。こんなに努力したのに実はこの彼氏ゲイだったのですから...。「ぼくはゲイじゃないよ」と世間に信じていただくためのPRに使われていたと知っていたら「百年の孤独」を英語では読まなかったでしょう。

私が洋書を沢山読むようになったきっかけは、ジェフリー・アーチャー作の娯楽性が高いサスペンス「百万ドルを取り返せ」でした。ミステリーに始まり、ファンタジー、SF、ゴシックロマンス、といずれも軽く読み始められて「次に何が起こるのだろう?」とページをどんどんめくらせてくれる分野に進み、純文学やノンフィクションを洋書で楽しめるようになったのはアメリカに移住してから(15年くらい前)のことです。

そうそう、ロマンスだって馬鹿にしたものではありません。

私がパーソナルショッパーとして本を探してあげる女子高校生3人組は、いずれも13歳のときに中学校の推薦で大学入試専攻テスト(SAT)を受け、数学でアイビーリーグ大学入学者のSAT平 均点に達した優等生たちですが、大好きなのはロマンスが含まれたファンタジーです。そのうちのひとりで夏休みには宇宙物理の合宿に行くほどお勉強好きなル イーザは、ファンタジーに加えて歴史ロマンスをよく読みます。「歴史の形をとっていても、実際はロマンス。でも、少し言い訳ができるのが利点」というのが 本人の告白。こういう読者もいるのです。ロマンスの分野では性的描写が多く展開が単純なエロチックロマンスシリーズが有名ですが、人物描写が優れていて歴 史や科学などの考察がしっかりした分野もあります。きちんと選べば楽しい読書体験ができます。どちらにしても、ロマンス好きを馬鹿にしてはいけません。

下記はルイーザのおすすめ本です。

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 ちなみに、ルイーザが読んだ後の本はこういう状態になりますので、娘には「私が読む前にルイーザには貸すな!」と命じております。 Ruined_books_001_3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、これを話すと周囲のアメリカ人は私の人格を疑うようなのですが、私は昔「スタートレック」の大ファンだったのです。

幼いころに外国で暮らしたいと夢見たのは「赤毛のアン」や「プライドと偏見」の影響ですが、英語を学ぶ直接のモチベーションを与えてくれたのは「スタートレック」です。

スポックを演じたレナード・ニモイにファンレターを書きたいけれど、英語は知らないし、どこに送ればよいのかもわかりません。思い余って、スタートレックの本の翻訳者に手紙を書いたのが小学校5学年のときでした。

記憶が定かではないのですが、翻訳者は中上守さんだったと思います。とても丁寧なお返事をいただき、いつか英語で直接スポックにファンレターを書けるようになろうと決意したことを覚えています。

このミーハー心は今でも生きていて、「好きだ!」という作品に出会うと、作者に「この本が大好き!」というファンメールをすぐ送ります。意外かもしれませんが、多くの作家が「ありがとう」という親切な返事をくれます。

 

読書だけでなく、人生にとって内なるミーハー心は不可欠だと思うのです。

 

 

 

 

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

洋書初心者への「失敗しない完読テクニック」その4」への2件のフィードバック

  1. 初めまして。
    いつもひたすら読み逃げをしていたので、
    この記事を読んで私も渡辺さんに
    お礼をと思いました。
    オーストラリアに在住で、
    図書館で本を借りては読んでいるのですが、
    とりあえず自分の知識内でおもしろそうな本を一通り読み終えたあと、
    渡辺さんのサイトに大変にお世話になってます。
    どうもYAものが好きらしく、
    Graceling、Poison Studyは
    渡辺さんのおかげで発見!大満足でした☆
    ほかにも
    City of Bones(3冊読んだものの、主人公の女の子が苦手・・)、
    The Host、Time Traveler’s Wifeなど好みがかぶるところもありつつ。
    でも最大の発見は、Playでした。
    そこここに見え隠れする渡辺さんの子育て論に
    共感していたのですが、
    この本は本当におもしろかったです。
    自分の子供時代に照らし合わせて考えてみたり、
    パートナーの様子に当てはめてみたり。
    最後に
    1冊だけお勧めしたい本があります。
    The Happiness Trap by Russ Harris M.D.
    これは渡辺さんの考え方にも合うのではないかなぁと
    勝手ながら思いました。
    イントロだけでも気が向きましたら
    どこかでぱらぱらとめくってみてください。
    さてさて長くなりました。
    これからもよろしくお願いします☆

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  2. ちょこさん、コメントありがとうございます。
    お役に立てて嬉しく思います。
    City of Bonesの主人公が苦手..というのなんとなくわかります。私はTwilightのBellaタイプが苦手です[E:coldsweats01]
    私の好きなタイプはGraceling、Poison Studyといった強い女の子ですね。そういう意味でGracelingと同じ作者の新作(9月発売予定です)のFireはなかなか良かったです。また近いうちにレビューを書く予定です。
    The Happiness Trap の情報をありがとうございます。面白そうですね。ぜひ近いうちに試してみたいです。今、男女の脳が生まれつき異なるかどうかというPink Brain Blue Brainの評を書きかけです。これもまだ発売されていないのですが、なかなか面白い脳科学/子育て関係の本です。こういう本って直接役に立たなくても面白いものですよね。
    これからもよろしくお願いいたします!

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