話題の現代文学-Lowboy

John Wray

2009年3月

純文学/現代文学

僕が生まれてきたのには理由があるはずだ-胸に焼きつく統合失調症の少年の叫び

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妄想型統合失調症に罹患している16歳の少年Willは、低い場所(low)にある地下鉄が好きだからLowboyと呼ばれている。
1年半前にガールフレンドのEmilyを地下鉄の線路に突き落として精神病院に送られたが、自分には地球の温暖化を止める使命があると信じ、地球を滅亡から救うために服薬をやめ、病院を抜け出して地下鉄に潜伏する。
ニューヨーク市警察の行方不明者捜索の担当者Ali Lateefは、オーストリア生まれのWillの母Yda(WillはVioletと呼ぶ)から得る情報を参考にWillの行方を追う。だが、彼はWillを追うことよりもVioletとWillの謎解きに熱中しているようだ。
いっぽう、心理的な問題と家族問題を抱えているらしいEmilyは、統合失調症ゆえにWillに惹かれているが、ティーンゆえに深い理解をしているわけではない。Willに誘われて衝動的に一緒にNY市の地下に広がる闇の世界を逃亡することにする。

妄想があるWillの目からは人が常に姿を変えるが、Violet、Ali、Emily、精神科医など脇役の言動も普通ではない。
正直言ってこれら脇役には苛立ちを覚えたが、妄想と現実が揺れ動くWillの世界は全てブリリアントとしか言いようがない卓越した表現である。ずっと昔に実習で妄想型統合失調症の患者に接したことを思い出す。ことに彼の胸いっぱいにあふれる愛とヒロイズムは、何度読みなおしても、リアルで、美しくて、悲しい。
ブラックな笑いを誘う場面はいくつもあり、ドライな文章でメロドラマチックなところはまったくないのだが、全体を通じてWillが登場するすべての箇所が泣きたいほど切ない。天使のように美しく創造されたWillの、美しいが壊れたマインドとマニアックなヒロイズムの不条理。彼の存在が許されない世界の無情が悲しい。

I thought there was a calling Emily. I thought there had to be. Why else was I born if not for that. Dutchman said life is impossible but not if there’s a reason. There has to be a reason Emily. Otherwise why this sickness. Without it there’s only poor sick Will gone up to heaven. Thank God there was a calling Emily.

このWillの心中の叫びを思い出すたび、読み終わって1日たった今でも涙が出てしまう。

作者のJohn Wrayは、3年前からニューヨーク市の地下鉄のプラットフォームでこの作品を書いたという。20代から30代の青年をターゲットにしたもので4月3日からAmazon.comで売り切れになるほど売れている。
これがJohn Wrayの最高作になるとは思えないが、若い彼の眩暈を覚えるほどの潜在能力を感じさせる作品である。

●ここが魅力!

Willが何を目的としてどこに行こうとしているのか、そういったサスペンスにひかれて最後までいっきに読んでしまったという読者も多いようですが、この作品の本当の魅力は、John Wray が創り出したWillの精神世界にあると思います。イージーな結末を与えてくれないところや読んだ後で簡単に忘れ去ることができないのも魅力といえるでしょう。

追記:文芸評論家の意見もそうですが、好き嫌いが極端に分かれるタイプの本です。ちゃんとしたストーリーやクエストを求める方は失望すると思いますので、ご注意ください。

●読みやすさ ★☆☆☆☆

文章そのものは決して難しいものではありませんが、ストーリーを追う作品ではないので読みにくいと思います。ストーリーラインに無関係のような詳細もけっこうあります。また、現実と妄想の区別がつきにくく、英語に慣れていない人は混乱するでしょう。

●アダルト度 ★★★☆☆

セックスシーンはありますが、非常にドライです。

●John Wrayのその他の作品

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