芸術としての文学を楽しむ作品-The Sky Below

Stacy D’Erasmo
2009年1月
純文学/現代文学

Stacy_derasmo2 muse & market place特集の第一弾は、ボランティア講師を勤めた作家のひとりStacy D’Erasmo です。D’ErasmoはこれまでにTeaと A Seahorse Yearという文芸作品を2冊上梓しており、The Sky Belowは第三作目です。現在コロンビア大学の助教授として創作を教えています(D’Erasmoのサイト)。
都会人らしいシャープで辛らつなウィットに富み、頭の回転が速い(写真よりもずっと)魅力的な女性です。主人公に好感を求める最近の文学シーンに相当反感を抱いている感があります。

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(あらすじ)
母子家庭で育ったGabrielは他人の持ち物を盗み、ドラッグを売り、男性を相手に売春する反抗的な思春期を送る。その後大学で親友になるSarahと出会い、成人してからはニューヨーク市でツーリストを対象にした無料の新聞に記事を書くぱっとしない仕事をしながら、盗んだり見つけたりしたオブジェクトを使うアートを作る。金持ちで年上の愛人JanosはGabrielを愛し一緒に住むことを提案するが、Gabrielはそれを拒否し続ける。がんに罹患していることがわかり、人生の危機に直面したGabrielは衝動的にメキシコに行き、コミューンに加わる。

このThe Sky Belowは、ある意味で非常に読みやすく、ある意味で非常に読み難い本です。
読みやすいのは、余計な飾りがない簡潔で印象的な散文体だからです(この点では読みやすさ★★★)。
そして読み難い理由は、主人公のGabrielが自己中心的で小心で狡猾で同情の余地がない嫌な奴で、その一人称の語りをフォローするのが精神的にしんどいからです(この点では読みやすさ★)。
この作品への評価が「主人公に好感が持てない」という批判に集中していることに対してD’Esramoは、「主人公の好感度がいつ文芸作品の良否を評価する基準になったのか?」と反論します。

muse & market placeでの彼女のワークショップは、「好感が抱けない主人公」について検討するもので、彼女が例に挙げたのが、アップダイクの「走れウサギ」のウサギ(Rabbit)、フロベールの「ボヴァリー夫人」のエンマ・ボヴァリー、アパルトヘイト後の南アフリカを舞台にしたJ. M. Coetzeeの「Disgraced」の主人公David Lurieです。それぞれが自己中心的で好感が持てない人物ですが、それゆえに読者は興味を抱き魅了される、というのがD’Erasmoの見解です。

「好感が抱ける主人公の出来が悪い文学と好感が抱けない主人公の出来がよい文学のどっちが良いのか?」とD’Erasmoは問いかけます。

D’ErasmoのThe Sky Belowの文章は、たしかに「これぞ良文」と呼ぶべき非常に優れたものです。それでも私がこの作品をあまり楽しむことができないのは、アップダイクの「走れウサギ」が好きになれなかったのと同じ理由です。どうせならPatricia HighsmithのThe Talented Mr. Ripley(邦訳「太陽がいっぱい」)のTom Ripleyくらい魅力的な「嫌な奴」であってほしいと思う私は、純文学ではなく、大衆小説向きの人間なのでしょう。

純文学専門の評論家からは高く評価されている作品ですので、芸術としての文学を楽しみたい方におすすめします。

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