子供の才能を殺さないために親が読む本(2)ー Einstein Never Used Flashcards

Roberta Michnick Golinkoff, Kathy Hirsh-Pasek, Dian Eyer
320ページ
Rodale Books
2004年8月刊行
発達心理/教育/ノンフィクション

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「アインシュタインはフラッシュカードなんか使わなかった」という魅力的なタイトルの本。

アメリカでも3歳までの親の努力でわが子を天才に育てられるという宣伝文句につられて赤ん坊にフラッシュカードで単語を覚えさせたり、モーツアルトを聴かせたり、保育園から詰め込み教育をさせたりする親が激増している。特に都市部の裕福な家庭でそれが顕著である。その社会現象に疑問を覚えた発達心理学者のGolinkoff, Hirsh-Pasek, Eyerの3人が、科学的な根拠を示して早期英才教育の無意味さ(あるいは害)と遊びの重要さを解いた非常に重要な作品。

各章は以下のとおり。

  1. The Plight of the Modern Parent
  2. Brainchild: How Babies Are Wired to Learn
  3. Playing the Numbers: How Children Learn about Quantity
  4. Language: The Power of Babble
  5. Literacy: Reading between the Lines
  6. Welcome to Lake Wobegon: The Quest to Define Intelligence
  7. Who Am I? Developing a Sense of Self
  8. Getting to Know You: How Children Develop Social Intelligence
  9. Play: The Crucible of Leaning
  10. The New Formula for Exceptional Parenting

そして親が心得るべき4つの原則

  1. The best learning is learning within reach
  2. Emphasizing process over product creates a love of learning
  3. It’s EQ(emotional intelligence), not just IQ
  4. Learning in context is real learning — And play is the best teacher

●私が特に共感を覚えた箇所

*幼い脳に詰め込み教育をすると、脳でのシナプスの接続がおいつかないほどの大量の情報が氾濫するneurological “crowding”が起こり、かえって脳の健全な発達を妨げる可能性がある。

*乳幼児もフラッシュカードで単語を覚えることはできるが、その情報と自分の周囲の実際の世界とを結びつけることはできない。このような早期の経験が脳の機能を高めるという科学的な証拠はない。

*早期教育を重視する保育園(academically oriented preschool)に通った子供と社会性を身につけることを重視する保育園(socially oriented preschool)に通った子供を比べた結果、5歳のときには前者のほうが数とアルファベットを知っていたが、小学校に入るとその差が消え、早期教育を受けた子が小学校でとくに「頭が良い」とみなされることはなく、かえって創造性と学習意欲が低いということがわかった。

*Gifted Children(天賦の才がある子)は、その分野で他の子よりも努力をせずにたやすくできる。他の者よりも質的に異なる方法で学び、大人の手助けを要さない傾向がある。要するに、天賦の才がある子は、親が押し付けなくてもみずからその分野に興味を抱き、自分でやる気をおこすものなのである(“They are not children who need to be pushed by their parents. They motivate themselves.)。(私の口癖「天才は作れない」に匹敵しますね)

*子供の体験やニーズではなくテストの結果重視の詰め込み教育に焦点を当てると、学習が苦痛な仕事になり、失敗の不安に脅かされるようになる。自然な学習は、子供の好奇心や探索から生じるものであり、それは楽しい体験である。

*赤ん坊の苛立つような繰り返しの行動(例えば、何度もスプーンを床に落とす)は、体験を通じて法則を発見しているのである。つまり子供時代の遊びは大切な学習なのである。

*幼児期、学童期で最も重要なのは遊びであり、学問という仕事ではない。子供は遊びを通じて学ぶように生まれついているのである。
“ The rats that remained in nature had the best brains of all”(この引用、個人的にとっても気に入っていますhappy01

●ここが魅力!

すでにご存知と思いますが、私は早期英才教育には反対の立場を取っており、以前にも「子供の才能を殺さないために親が読む本(1)」というブログ記事で「早期英才教育(高速計算練習やフラッシュカードで単語を覚えさせるなど)は、想像力や思考力を育てるべき時期の脳に剪定をさせてしまう危険な行動であり、せっかく子供がもって生まれた才能をかえって殺してしまうだけでなく、問題行動を取る人間を育ててしまう可能性がある」ということをお話ししました。

そのときにご紹介したこのEinstein Never Used Flashcards: How Our Children Really Learn–and Why They Need to Play More and Memorize Lessは、たぶん私の考え方に最も近いといえます。
科学的な根拠に基づいた結論ですが、普通の人にわかりやすい書き方で、しかも「どうすればよいのか」というところまで言及しています。
私もこちらでけっこう体験しましたが、「親のあなたが今ちゃんと努力しないと、お子さんが可哀想なことになりますよ」といった(よけいなお世話的)親切アドバイスをしてくる人々がいます。そういう人々に「 neurological crowding が起こると困りますから」とお断りするときに役立つ本です。
「十歳で神童、十五歳で才子、二十歳過ぎればただの人」ということわざはけっこう深いのではないかと思います

●読みやすさ ★★☆☆☆

文法的には単純で、論文を読み慣れている方にはかえって読みやすい文章です。

けれどもそれ以外の方にはとりつきにくい感じを与えるかもしれません。でも、学者さんが書いた本の中では非常に読みやすい部類です。

●最近米国で流行っていて、私が嫌な気分を覚えている早期教育のひとつBaby Sign languageのビデオ

私は学生時代に手話を学んだことがあり、手話に関してはもっと多くの人に学んでほしいと思っています。でも、このBaby Sign languageはまったく別物です。
なぜ聴覚に異常がない乳児に手話を教えてはならないか、というと、乳児はこの時期に親の声を聴き、表情を読み、通常のコミュニケーションの基礎になる学習をしているからです。何もしていないようで、けっこう忙しい大切な学びの時期なのです。そして、他人に伝えたいことがあるから言葉を発そうと努力するのです。そういった時期に母親が別の手段に集中したら、もちろん赤ん坊の脳もそちらに集中し、簡単にそれを覚えます。赤ちゃんに手話を教えてそれができるのは「すごい!天才だ!」ではなく当然の結果なのですが、健全なコミュニケーションと脳の発達のためには邪魔だと思います。neurological “crowding”のことも心配です

2 Comments

  1. ブログには始めてコメントさせていただきます。(Twitterでは何度かやり取りさせていただいていますが。)
    この記事、4人の子供を育てる母親として、私も大いに共感しました。私自身、大学院で認知言語心理学を学びましたので、ご紹介くださった本には大いに興味を覚えました。ぜひ読んでみようと思います。自分の子供は一番上の子はすでに18歳、下の子も8歳なので、早期教育うんぬんとはもはや無縁の世界ですが、研究者がデータをもって示してくれることには敬意をもって耳を傾けるべきと常日頃から思っていますので、この本のことも、まわりの若いお母さんたちに勧めたいと思います。

  2. こんにちは。いつもTwitterではお世話になっています。
    私の娘ももう16歳なのですが、教育や発達心理には今でも興味を持っています。幼いころから「どう思う?」と彼女の意見をたずねてきたせいか、このごろでは「大学では脳神経学か心理学を学びたい」と言い出しています。
    この本の良いところは、センセーショナルな研究結果をcherry pickして誇張することなく、「常識的」な結論を出していることです。
    でも、常識って売れませんからね。だから「10歳までに天才が作れる!」といった本の中で見過ごされているのでしょう。
    最近まだ発売されていないPink Brain Blue Brainという本を読みましたので、それもまた近いうちにご紹介しようと思います。
    これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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