EVERYTHING RAVAGED EVERYTHING BURNED推薦文 by sosoraraさん

 生来のザル頭が最近いっそうひどくなり、読んだ片端から記憶が薄れます。短編集は特にそうで、ちょっと時がたつともはやうすボンヤリとした「感触」くらいしか記憶には残らないのですが、このデビュー短編集は、その際立った個性でもって私の記憶の霧のなかからくっきりと屹立しておるのであります。好き不好きはあると思いますが、文学好きの方なら、読んで損はない一冊かと。
  人生のとあるところをさくっと切り取って、切断面からその人物や周囲の人間の人生の成り立ちを垣間見せる、じつに短編らしい短編が並んでいます。乾いた筆致で、的確に人物像を描き出すその描き方は、細やかというのではなくて、鋭く、ウェットなところのない独特の情感を醸し出しています。
中年男、小学生の男の子、老人、少女。登場する主人公の年齢や性別はさまざまですが、みななんらかの挫折感や屈託を抱えています。とはいえ、挫折感や屈託をまったく抱えていない人間のほうがむしろ稀なのですから、そういう意味では現代人の普遍を描いていると言えるかも。その普遍が、じつにまあヘンテコなのです。人間というのはまったくもってヘンテコな生き物であることよ、とつくづく思わせてくれる作品集。現代のアメリカを舞台にした話が並んだあげく、最後はなんとバイキングの物語。伝説をなぞったかのような淡々とした殺戮の描写に、な、なんでここにこんなもんがくるのっ、しかもこれが表題作? と訝しみながら読み進めていくと、最後に、おおっ、こうきたか、とうならされます。いずれも見事な出来で、とてもデビュー作品集とは思えません。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.