2008年大統領選挙舞台裏ドラマのダイジェスト版 Game Change

副題:Obama and the Clintons, McCain and Palin, and the Race of a Lifetime
John Heilemann、 Mark Halperin
464ページ(ハードカバー)
Harper
2010/1/11
政治/時事/ノンフィクション

 

発売日にアマゾンで在庫切れになるほど話題になったGame Changeは、ベテラン政治ジャーナリストのJohn Heilemann(New York Magazineの政治コラムニスト。これまでthe New Yorker, Wired, The Economistなどのライターを務めた)とMark Halperin(Timeマガジンの編集長でシニア政治アナリスト)の2人が書いた2008年大統領選挙の裏舞台ドラマのダイジェスト版である。

だがドライな政治ものではない。
民主党予備選で歴史に残る血みどろの戦いを繰り広げたバラク・オバマとヒラリー・クリントン、人物をまったく知らないのにいちかばちかの賭けとしてペイリンを選んだマケイン、彼女を選んだマケイン側近でさえ後で愕然としたペイリンの無知さなど、どちらかというと、人間ドラマである。

政治ジャンキーの私は2008年の選挙戦を早くから追っていたので、特に驚きの新事実というのはなかった。どちらかというと、「そうそう、このときに、こういうことがあった」という写真アルバムを眺めるような感じだった。裏舞台で起こっていたことも、それぞれの個性も、想像したことがほぼ当たっていたことを確信できたのは愉快だった。
だが、選挙の詳細を追えなかった日本の方には新鮮な驚きだと思う。
米国の大統領選挙の仕組みを知らない方には少々わかりにくいかもしれないが、オンラインなどで調べながらこの本を読むと、読み終えたときにはすっかり理解できているだろう。

この本が多くのページを割いているのは、メロドラマを含めて波乱に満ちた民主党予備選である。たった4年前には無名だった黒人の新人上院議員のオバマの超越的な自信、夫やマスコミが好意的な評価していたときに「こいつは信用できん」と私が言い張ったエドワーズの素顔、実力があるし直接会った人には好かれるのになぜかマスコミに叩かれるヒラリーの苛立ち。彼らを取り巻く側近の対応も、テレビで顔を見ているが性格まで知ることはできないので、興味深いものだった。

注目のサラ・ペイリンについては驚くほど少ししかページが割かれてない。というか、選挙戦に政治的な参加をする経験も能力もなかったのだからこれ以上書くネタがないのである。彼女が本格的に登場するのはずっと後の20章で、副大統領候補に選ばれたいきさつと彼女を選んだマケインの側近すら後で後悔したということなどは、当時テレビを追っていたものであれば特に驚くような発見はない。だが、マケイン陣が専門家を雇って第一次、第二次世界大戦といった基本から歴史を教えなければならず、朝鮮半島が北朝鮮と韓国に分かれていることを理解できないほどの無知だというのは、やはり読むに値する驚きである。「左寄りのジャーナリストが書いたことだから信用できない」という人は、CBSの60minutesでマケインの選挙参謀Steve Schmidtの口から直接聞くといいだろう。(このサイトでは、本に出てくるケイティ・クーリックのインタビューも見られるのでおすすめ)

 

http://cnettv.cnet.com/av/video/cbsnews/atlantis2/player-dest.swf
Watch CBS News Videos Online

ペイリンの無知もすごいが、マケインの無知も相当なものだ。2008年後半に米国が直面していた金融危機についてFed Chair(連邦準備制度理事会議長)のバーナンキから説明を受けた後で、Home Depotの経営トラブルと比較して「It’s kind of like that, isn’t it?」と尋ね、バーナンキがあきれかえって「No, it’s not」と答えたエピソードでは、「こんな人が米国の大統領になっていたらどんな金融危機になっていたか!」とぞっとした。それに比べ、同時期のオバマの対応は、ブッシュ大統領よりも大統領的であった。これを見ると、現在オバマ以外に大統領になれる人物はいないと確信させられる。

これはそんなに深い本ではない。なのに私は不覚にも途中で涙した。

民主党を二つに引き裂いた血みどろの予備選が終わったときには視線を合わせることもないほど嫌いだったヒラリーにオバマは国務長官になってくれるよう懇願する。戦い終わって冷静に国の将来を考えたとき、彼女よりも知識と行動力がある者が他にいないことに気づいたからである。当初、ヒラリーは国務長官を引き受けるつもりはまったくなかった。何度も断ったのだがオバマはしつこく説得を続ける。私の目がうるんだのは、彼女が愛国心ゆえにこの仕事を引き受けようと思った部分である。どことは言わないが、きっとわかる人にはわかるだろう。

●読みやすさ 

米国の政治について詳しくない方:★☆☆☆☆
米国の政治に普段から注目している方:★★★☆☆

2008年の大統領選挙を英語のニュースで追っていた方:★★★★★

文章は非常に簡単明瞭ですが、大統領選をずっと追っていた人でないと、あまりにも多くの登場人物に圧倒されて誰が誰だかわからなくなる可能性があります。米国人の姑にプレゼントしたところ、私はすごくわかりやすい本だと思ったのに、彼女は「わからないところがあるけれど、面白い」と言います。わからない箇所は「知らない固有名詞が多すぎるところ」ということです。だから、沢山わからない固有名詞が出て来たら、「そういう人々がいるのだ」程度に軽く構えればおおまかなことは理解できると思います。

2 Comments

  1. こんにちは!
    これは面白そうな本ですね! 私は、政治のことはかなり疎いのですが、それでも2008年の大統領選については、Christian Rightの動きとあわせて2007年の1月からちょろちょろフォローしていました。(私のブログに最初にオバマの名前が出てきたのがその頃でした。)オバマは地元シカゴでもあり、興味津々だったのです。また、マケインが共和党代表に決まって絶望したChristian Rightの大御所たちが、ペイリンがでてきて俄然張り切る様子なども、興味深く追っていました。
    私自身は、ペイリンが出てきた頃にはまるでペイリン叩きのようなブログになってしまい(ギブソンやクーリックのインタビューを見れば、誰だってそうなりますよね?)、夫に「あんまり書かない方がいいんじゃない?」とたしなめられたほどで、実際、書いてから消した記事もあります。(汗)
    キンドルでポチッと、と思ったら、あれ?2月末にならないとキンドル版はでないのですね。図書館でチェックしたほうが早いかな。
    ともあれ、興味深い本のご紹介をありがとうございます。

  2. はちこさん、こんにちは。
    ペイリンを推すChristian Rightの行動のために、日本でそれが米国でのキリスト教を代表するような報道になっていたのは困ったことだと私も思います。私もTwitterで彼女を批判すると、日本人の方なのに共和党よりの方からがんがん抗議が来たりしますから(笑)。
    Game Changeにも、マケインの方針に従うと約束したのにそれに従わず、公的にChristian Rightのissueを押したペイリンの行動にマケイン陣が手を焼いていた様子も書かれています。この本を読んだ後でも彼女に次期大統領になってほしいと思う人が多いとしたら、この国の将来が本当に不安です。
    kindleで変えないことについては、今日の洋書ニュースのほうにも書いていますが、わざと遅らせるのはやめて欲しいですね。でないとみんな「図書館でいいや」とかになってしまいますから。

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