超なさけなくて悲しい近未来ディストピアの恋- Super Sad True Love Story

Gary Shteyngart
352ページ(ハードカバー)
Random House
2010/7/27発売
文芸小説/SF/風刺

近未来のアメリカでは、電柱のようなCredit Poleの横を通るとその人の貯蓄を含めた経済情報が公示される超情報社会になっている。個人情報の全てがランキング化され、iPhoneのようなäppärätというデバイスでスキャンすると誰の情報もすぐ分かる。

万人が軽薄になっている米国での重要な情報は、経済力、性的魅力、そして若さ、である。それらの数字はたとえば800点満点評価で、Personality 746, Fuckability 800といった具合でäppärätに現れる。人々は互いをランキングのみで評価するようになっている。

Teenというネットでいつも誰かと繋がり、知性のかけらもない会話をコンスタントに交わしている人々にとっては、児童書を「ストリーミング」するだけで知的労力を要する作業である。しかし、知的労働より表層的な魅力が重視される社会なので、紙媒体の本を読む人間は前時代的だと見下されている。中国への負債を抱えている米国経済は下降する一方で、ドルには殆ど価値がなくなっている。代わりに経済大国になっているのは中国である。口先だけの脅しが立派な大統領の政策のために、米国はますます不安な社会になっているが、軽薄な米国人たちはその行方の恐ろしさに気付いてない。

永遠の命を売る「 Post-Human Services」という会社に勤めている ユダヤ系ロシア人移民二世Lenny Abramovは、この社会で見下される典型的な男性である。 貯蓄のスコアは良いが、紙媒体の本を愛し、太めで悪玉コレステロールが高く、性的魅力にかけてはランキング下位に属する独身中年である。ヨーロッパで顧客を得るためにイタリアに赴任し、そこで気楽な生活を送っていたが、新政府の元で長期海外滞在をすることができなくなり、帰国することになる。帰国の寸前にLennyが出会ったのが、若くて性的魅力のスコアが非常に高い韓国系アメリカ人のEunice Parkだった。

Euniceに強烈な恋をし、彼女を幸福にするために哀れな努力を積み重ねるLennyと、家族の問題やオンラインショッピングに心をとらわれているEuniceのすれ違いの恋がまずSuper Sad。そして、本書で描かれている米国の近未来ディストピアもSadである。Sadどころか、米国にとってはSuper恐ろしい近未来ではないだろうか。

●感想あれこれ

正直言いますと、最初のうちは面白いと思いませんでしたし、読むのをやめようかと思ったほどです。

その理由は次の通りです。

・笑いを狙っている箇所はよくわかるのだけれど、手口が分かり過ぎて笑えない。

・「近未来」というよりもそのまま「現在」を風刺しているように思える。つまり意表をつくような未来がない。

・アジア系移民(韓国系アメリカ人)の夫婦関係や親子関係がステレオタイプすぎて(笑いを狙っているのはわかるが)笑えない。ここで描かれているアジア系移民の白人への劣等感はひと世代昔のものだと思う。韓国系移民の子孫である高校生に訊ねたが、「そんなの感じることない」との返事だった。

・iPhone、facebook、Twitter、電子書籍を批判する風刺だということは分かるのだが、自分では体験せずに書いていると感じた(後に聞いたポッドキャストのインタビューで事実であることを確認)。

・また、それらへの批判が「昔は良かった」的なのは説得力がない。特に、電子書籍をすっかり誤解している”How Amazon Kills Books and Makes Us Stupid“という記事のような発想には賛同できない。なんせ、この小説自体もKindle版が出るのだから。

ですが、読み進めるうちに、だんだん面白いと思うようになってきました。全てがランキング化され、常にネットで繋がっていないと不安になり、現実社会での繋がり方を知らない人々の存在は、決して近未来のものではありません。電子書籍に関しては彼は誤解していると思いますが、ネットでの繋がりに時間を費やし過ぎて本を読まなくなっている人が多いのは事実です。携帯が流行しすぎてふつうの長編小説を読まなくなってしまった日本の若者たちのことを考えると、この本で描かれている米国のSuper Sadな未来は日本のものでもあるかもしれません。

このSadには、「悲しい」だけでなく「情けない」感じがたっぷり詰まっています。「わはは」と笑う気にはなりませんでしたが、力ない笑いは漏れました。あり得そうな未来の恐ろしさから言うと、けっこう1984、Fahrenheit 451、The Giver、The Hunger Games、なみのディストピアSFです。

この本で、米国の代わりに未来の世界を制覇する悪役は中国です。20年前には、こういう本での悪役は日本だったのに、この小説では何の役割も果たさないというのはかえって寂しいものです。

それにしても、著者がこの作品を書き始めたのは2006年なので、彼が書いたことが次々と現実になっていったというのは初耳でした。批判と賛同、どちらの感情も喚起する、なかなか面白い本でした。

●読みやすさ やや難解

文法が難しい、というわけではないのですが、造語が普通の言葉のようにふんだんに使われています。洋書(特に文芸書)に慣れていないと、この手の本を読みこなし、楽しむことはできないでしょう。

もうひとつは、風刺を理解するためには、米国の政治や経済についての基本的な知識が必要だということです。現実社会では米国の大手航空会社が相次いで破産、合弁しています。この本では、それが過度に進んだ社会を会社名で表しています。どの会社が何を売っているのか、それらを知らないと会社名の組み合わせの可笑しさがわからないと思います。

●アダルト度

大人向けです。

露骨な性的な話が沢山出てきます。でも、セクシーな雰囲気ではありません。下品で露骨な未来を表しているわけですね。

超なさけなくて悲しい近未来ディストピアの恋- Super Sad True Love Story” への2件のフィードバック

追加

  1. なかなかまとまった時間が取れなかったのですが、
    何とか読み終えました。
    正直にいうと、あまり好きではありませんでした・・・
    (ごめんなさい!)
    読み始めに、「あ、アナログな私にはなんかついていけない」と思ったのですが、ある意味説得力のある近未来像を面白いと思い読み進めました。ふたりが公園に行く場面の表現など、詩的でかっこいいなぁ、と思った箇所も多々ありました。
    しかし、最後に近づくにつれ、彼らの心情に「?そんなふうに思うかな~??」と、私の中ではなんだかすっきりとしない部分が多かったように感じました。
    いつもミステリーとかサスペンスなどの、必ず答えがあるものばかり読んでいる私の力量のなさだと思います・・・。
    もっと勉強して出直してきまーす。
    話題のこの作品を「(一応)もう読んだよ♪」って人に言えるのが今回の最大の収穫でした。

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  2. Y_miekoni75さん、ご苦労様でした!
    「あまり好きでない」おおいに分かります。
    私も最終的に「面白かった」けれども好きか嫌いか訊ねられたら好きじゃない(笑)。
    夫から「僕が読んで楽しむと思う?」と訊ねられて、「ゴミ箱に捨てると思う」とも答えましたよ。彼の好みは良く知っていますから。
    好き嫌いが分かれる本だと思います。

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