米国ではiPad専用の電子教科書競争が既にスタート

アメリカでは、iPadを使った電子教科書がいよいよ本格的に実現し始めるようです。

ピクチャ 11 ウォールストリート・ジャーナル紙によると、今週、元アップル社の社員Matt Mac Innisが設立したInkling社のベースで、大学生向けのインタラクティブ教科書がiTune ストアから発売されます。

このニュースのどこが特別かというと、まずInkling社がiPad専用の電子教科書をターゲットに絞った会社であるということです。次に、この社と取引して大学用の電子教科書を出版するのが教育分野の大手出版社McGraw-Hillだということです。最初に発売される4冊は、大学用教科書のベストセラー(生物学、経済学、マーケティング、心理学の四教科)です。そしてさらに重要なのが、この電子教科書が、紙媒体をそのままテキストにしたものではなく、フルカラーでリンクもあり、完全にインタラクティブだということです。値段は1冊が最初の特別価格約70ドルからで、それが終わると15ドルほど値上げするとのこと。

同じく教育分野の本を多く出版している大手出版社Wileyも、Inkling社と取引を結んだとのことですから、この分野での競争が盛んになることが予想されます。

2009年の高等教育分野での電子教科書の売上高は推定$40 millionで、今年はその2倍$80 million(高等教育電子教科書売上高の約1%)になると予想されています。Wiley社のように早い時期から電子出版に取り組んで来た出版社としては、いまのうちに入り込んでおこうとするのは当然です。

とはいえ、まだまだ学生側には電子教科書への抵抗があるようです。娘の高校のEnglish(日本での国語に匹敵)の授業でディスカッションしたときも「電子教科書反対派」が圧倒的に多かったようです。それが今後どう変わるのかは、使い勝手の便利さにかかっているでしょう。

日米では「教科書」の扱われ方が異なるので、そこを付記しておきたいと思います。

①公立の小、中、高の教科書は、毎年生徒に配給されるものではない。地方自治体が公立学校の経費の中から購入するものであり、最低数年は使う。生徒は1年のはじめに教科書を学校から借り、学年末に返却する。小学生は殆ど「教科書」は使わない。

②全国統一の教科書はない。州や地方自治体、学校などがそれぞれ選ぶ。

③中学校、高校の教科書は、百科事典ほど分厚く、高価。1冊100ドル以上が普通。

④大学で使われる教科書はさらに高価で個人が購入する。だが、先輩から古本を買うシステムもある。教授の書いた本や普通の本を使うコースもある。

⑤日本のように、教科書の内容だけを勉強するということはない。テストもしかり。教科書以外の書物やメディアを使って勉強をする必要がある。また、学校の成績は、テスト以外の論文などが重視されるので、日本の教科書のような絶対の存在の教科書はない。規定の教科書を使わない教師も多い。

私の予測

上記のような米国の教科書事情と、不況の影響で公教育の教育費が削減されている状況を考慮すると、iPadを学校が購入することはまず不可能だと思います。また、生徒に購入を強要することもできません。従って、電子教科書分野は、少なくとも最初のうちは、大学生以上の「高等教育」に限られると思っています。

2 thoughts on “米国ではiPad専用の電子教科書競争が既にスタート

  1. わたしの友達の娘さんが通っている高校では、とうとう教科書が全部オンラインになったそうです。学校側は、それで教科書を紛失する(これがよくあるんです)ことがなくていいでしょうが、コンピュータを持っていない子供はどうするんだろうと言ってました。私の勤めている高校では生徒の数に対してあまりにもコンピュータの数が少ないので、教科書オンライン化はしばらくは無理なのかなあ、と思います。学期始まりと末には、図書館なのですが教科書の配布、回収もしているので、ちょっとコメントしてみました。

  2. こんにちは。
    州や地方自治体、学校によってずいぶん違うという極端な例ですね。今は予算がない学校のほうが多いので、高校以下の公立学校では電子書籍といってもiPadを使うようなものを採用する可能性はないですよね。
    私立はなんでも可能ですけれど。
    図書館で教科書の配布と回収というのは、生徒にとって便利ですよね。図書館の方は仕事が増えて大変かもしれませんが。
    それこそ、地域によっていろいろな方法があるというのが米国なのですが、きっと日本の方には想像できないと思います。
    そのバラエティをお教えくださり、ありがとうございます!

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