朝目覚めるたびに記憶が消えている女性が過去を取り戻そうとする心理スリラー Before I go to sleep

S.J. Watson
ハードカバー: 368ページ
出版社: Harper
2011/6/14
心理スリラー、サスペンス

 

ある朝、ベッドで目覚めたクリスティーンは、自分がどこにいるのか、隣りに眠っている男性が誰なのかまったく思い出せなかった。トイレに行って鏡を見た彼女は、歳を取った自分が見つめ返していることに愕然とする。隣りで眠っていた男性は、クリスティーンの夫の「ベン」だというが、彼女には記憶がない。交通事故の後遺症で、眠るたびにクリスティーンの記憶は抹消されてしまうのだとベンは説明した。せっかくまる一日かけて記憶したことも、次の朝には消えているのだ。


まだ混乱しているクリスティーンは、ベンが仕事に出かけた後で彼女の医師と名乗る若い男性から電話を受け取る。その医師が論文を書くために始めた治療は、日記を毎日つけて読み返すことで蓄積できない記憶を学び返してゆくというものだった。だが、医師は治療のことをベンには内緒にしておくよう注意する。当初に医師が接触したときに、「これまでいろいろ治療したが、何も効果がなかった」と治療を頑に拒んだというのだ。

クリスティーンは、記憶もなく、仕事もできない妻を愛して面倒を見てくれている夫に対して感謝したり、すべてを隠している彼に腹立ちを覚えたりする。すべては事実の残酷さから妻を守るための思いやりなのではないかとも思うが、ある朝開けた日記には、” Don’t trust Ben.(ベンを信じてはならない)”というメッセージが書かれていた。
けれども、その理由は、どこにも記されていなかった。

●ここが魅力!

どんどん消えてしまう記憶のかわりに自分自身へメッセージを書き留めるという設定は、映画「Memento」を思い出させます。新しい記憶を作っても翌朝にはまったくゼロに戻っている、というのは、想像するだけで恐ろしく、耐えられないことです。Mementoのように、この作品も、読者の心を掴んで離しません。

クリスティーンは、若い医師の指導で日記に記憶を積み上げて行きますが、回復する希望が見えて来ただけでなく、混乱するような疑惑も次々と生まれてきます。なぜベンは息子の写真を飾っていないのか?親友はなぜ連絡を断ってしまったのか?記憶喪失のきっかけは何か?若い医師は本当に信用できるのか?何よりも、病院に入院していたころパラノイアがあった自分の記録を「事実」として信用して良いものか…?

消えた過去を取り戻すための主人公の葛藤を読み進めるうちに、読者にもそのパラノイアが伝染し、自分自身の記憶まで疑ってしまいそうな臨場感があります。謎の数々がじわじわと恐ろしい事実を浮かび上がらせてゆくという、非常に完成度が高い心理スリラーで、最後まで飽きることがありませんでした。

私は本書をオーディオブック(Audible)で聴いたのですが、途中で妙なエコーがかかったり、『この部分では、私なら違う感情表現をしただろう』とひかかる部分がいくつかありました。ゆえに、この本は書物で読むことをお薦めします。

●読みやすさ ネイティブの普通

難しい言い回しはなく、会話も多いので、英語に慣れている人であれば難しくは感じないでしょう。
また、ネイティブでも最初のうち何が起こっているか分からず混乱する人がいるようですが、少し読み進めれば、途中で休みたくないほどのめり込めるでしょう。

●おすすめの年齢

性的なシーンがいくつかあるので、高校生以上。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

朝目覚めるたびに記憶が消えている女性が過去を取り戻そうとする心理スリラー Before I go to sleep」への3件のフィードバック

  1. ものぐさ父さん様、
    コメントありがとうございます。
    その映画はDrew Barrymoreの50 First Datesではありませんか?
    あれはコメディでしたね。
    このスリラーは、今年発売されたもので、まったく別ものです(^^)。もっと深刻で、でも面白いです。

    いいね

  2. 早速のリプライ、ありがとうございます。
    そう、そんな名前でした。心温まるお話だった気がします(でも英語で見たので、細かいところはよくわかりませんが)。
    医学ネタは、仕事柄割と強い方ですが、もう少し読書力がついてから挑戦してみます。
    今後ともよろしくお願いします。
    では、また。

    いいね

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