南仏プロヴァンスに旅をしたくなるゴシックロマンス The Lantern

Deborah Lawrenson
ハードカバー: 400ページ
出版社: Harper
2011/8/9発売予定
ゴシックロマン/ミステリー/幽霊

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英仏通訳の若い女性”イブ(Eve)”は旅先で偶然出会った年上の英国人の男性ドム(Dom)と恋に落ちる。申し分のない幸せにひたっていたイブだが、ドムの強い希望で南仏プロバンス地方のLes Genévriersというヴィラを購入してから、幸福に暗い影が刺さしはじめる。


1912063-Lacoste_Luberon-Provence_Alpes_Cote_dAzur かつて結婚していたことがあるドムは、前妻のレイチェルについて語ることを頑に拒む。それなのに、ドムがレイチェルと一緒にLes Genévriersに滞在していたことがあることを知り、イブはショックを受ける。ドムが隠している過去と彼の真の姿を知りたいが、追求すると今の幸福は終わるかもしれない。朽ち果てた屋敷で精神的な孤独と疑惑に苦悩するイブは、不思議な女性の姿やランタンを目撃するようになる。

Les Genévriersには、かつて地主のLincel一家が住んでいた。戦後パリで有名になった盲目の調香師Marthe Lincelが生まれ育った家だったが、そこには地元の人が誰も知らない暗い過去があった。

現代のEveと過去のBenedicte Lincelの2人の女性が交互に語る形で、2つの謎がしだいに明らかになってゆく。南仏の「香り」と「色」の表現で満ちたゴシックロマンス。

●感想

Luberon_lavender 若い女性と過去を抱える年上の男性との恋、古い屋敷と過去の妻に関するミステリー…、というと、連想するのがゴシックロマンのクラシック「Rebecca 」です。けれども、イメージや設定が似ているだけで内容は異なります。

The Lanternのミステリーは2つ。ドムが隠している前妻レイチェルの過去とLes Genévriersに現れる幽霊の謎です。残念なのは、進行が実に緩慢なことです。Eveの葛藤にも繰り返しが多く、Benedicteの語りにも驚きがなく、多くの読者はしびれを切らすのではないかと思います。幽霊や超常現象の恐ろしさも感じられません。

そういった意味では失敗作品という見方もありますが、私はけっこう楽しませていただきました。
まず、調香師が出てくるだけあって、香りに関する表現が美しく、ときおりむせかえるような香りを感じることがあります。なだらかに続くラベンダー畑や、過去をそのまま保存した真夏のプロヴァンス(リュベロン地方)の風景が目に浮かび、まるでそこにいるような感覚も覚えることができます。香水にも興味を抱くことができました。

アメリカには、夏のビーチで軽く読む「beach read」というカテゴリーがありますが、たいていはお決まりパターンのロマンスです。それらに比べると、ずっと読書体験を楽しめるものでした。ゴシックロマンスといっても、ただの「ロマンス」とは違い、ときめきの恋愛は含まれていませんので、お間違えなく。

●読みやすさ 普通〜やや読みにくい

文章が難解だというわけではありません。
プロット中心ではなく、香りや色などの表現を重んじているために、展開が緩慢に感じる読者が多いと思います。
2人の女性が交互に一人称で語るのも、混乱をもたらすかもしれません。
特に、普通のミステリーを読み慣れている方々には、入り込みにくく、スローに感じるでしょう。

●おすすめの年齢

性的な関係を語る部分はありますが、特に露骨な描写はありません。
中学校3年生くらいから。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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