矛盾した夢想家 Steve Jobs

Walter Isaacson
ハードカバー: 656ページ
出版社: Simon & Schuster
ISBN-10: 1451648537
発売日: 2011/10/24
伝記

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2011年10月5日に亡くなったアップルの共同創業者でCEOのスティーブ・ジョブズ公認の伝記である。

ジョブズが自ら著者に執筆を依頼したのだが、非常に興味深いのは、コントロール・フリーク(すべてを自分の思い通り、理想どおりに操りたい性格)の彼が著者をコントロールしようとしなかったことである。それゆえ、ジョブズが破滅させた者や彼を憎んでいる者の取材もきちんと行われており、この矛盾した夢想家の多面性が鮮やかに描かれている。


スティーブ・ジョブズは、矛盾のかたまりだった。
グレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインを愛するヒッピーでありながらも、徹底的な資本主義者だった。赤ん坊のときに実の両親から捨てられた心の傷を抱えていたのに、ガールフレンドが生んだ自分の娘を認知しようとしなかった。非常に感受性が強く情緒的だったのに、自分に尽くしてくれた人々を冷淡に扱った。また、現実を自分の都合の良いように歪めてしてしまう「現実歪曲空間 (Reality Distortion Field)」で知られていた。これがうまく作用した結果がすばらしい製品の数々だが、がんに対しては命取りになる愚かな決断を下した。

読み続けるうちに、私は「The Psychopath Test」という本のことを思い出した。政治経済の分野で成功している人にはサイコパスがけっこう多いらしいのだ。けれども、ジョブズはサイコパスというよりも、「自己愛性人格障害」だったのではないかと思う。振り回された人々は深い心の傷を負ったことだろうが、それを悔やむ能力が元々欠如していたのだと思えば、楽になるかもしれない。

また、ジョブズは、エンジニアとしてはさほどの才能はない人物だった。
iPod、iPhone、iPadなど、素晴らしい製品を作り出したのは、別の人々である。それらの人物やチームに栄誉を与えるべきだったし、すべての成功を自分のもののように扱うべきでもなかったと思う。創始メンバーだったにダニエル・コトキ氏に株のひとつも与えず、長女のリサを長年無視したジョブズは、道徳的には堕落した人物だったといえる。
それは間違いない事実だ。
しかし、「エンジニアとしては才能がなく、発明をした本人ではないからジョブズはたいしたことがない人物だった」と考えるのは、おおいに間違っている。

ジョブズのようにしっかりとしたビジョンがあり、強引にそれを現実化する人がいなければ、iPodやiPhone, iPadは誕生しなかっただろう。似たような製品は生まれたかもしれないが、ごちゃごちゃしていて、使いにくく、多くの人物に受け入れられ、世界を変えるような製品にはなっていなかっただろう。

「ジョブズはマーケティングがうまかっただけ」という考え方も的が外れている。

彼の最大の才能は「ビジョン」とそれを実現する集中力と強烈さ(intensity)である。彼の「現実歪曲空間」は、その一端だったともいえる。

先週末に、マーキュリー、ジェミニ、アポロ、スカイラブ、スペースシャトルの宇宙飛行士たちと語り合う機会に恵まれたが、彼らの多くが懐かしげに語るのが、ケネディ大統領の宇宙計画への貢献だった。
1962年にケネディ大統領がライス大学で行った演説「われわれは月へ行く…10年以内に行くと決めたのは、容易なことだからではない、むしろ困難なことだからだ」は有名だ。 むろんケネディ大統領が月に行く技術を開発したわけではない。だが、彼が壮大なビジョンをかかげたために、1969年の月面着陸が現実化したのである。

世界を変えるような壮大な開発には、ビジョンが不可欠だ。そして、多くの優秀な頭脳と膨大な資金を集める力が必要だ。それに加え、常に全体像を把握して評価し、軌道修正する能力を持つリーダーは、滅多に存在しない。アップルをいったん追われ、再び戻って来てからのジョブズは、そんな稀なリーダーだった。
尊敬できる人格ではないし、家族にいたら迷惑だが、この事実だけは否定できない。

この矛盾した人物をうまく描ききっているという点で、IsaacsonのSteve Jobsは非常に優れた伝記である。分厚い本だが、まったく飽きることはなかった。

非常に読みやすい英文なので、英語の本を読み慣れていない人でも、学校英語ができれば読めるのではないかと思う。知らない単語はいくつか出てくるかもしれないが、日本語でもそういうことはあるだろう。
ジョブズの肉声に触れるためにも、原書で読むことをおすすめする。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

矛盾した夢想家 Steve Jobs」への2件のフィードバック

  1. 渡辺さん、お久しぶりです。こちらのサイトに来るたびに渡辺さんの記事には本当に触発されます。
    本屋さんに山積みされたジョブズの伝記も、手に取るまでには至っておりませんでしたが、読んでみたくなりました。この記事を読んで、ヴィジョンを持つ大切さと大変さを感じました。
    そして、英語でも読めるかしらと思えてきました。
    昨日も、NHKスペシャルでジョブズ氏のことをとりあげていて、あのiPhoneを作った人というよりも彼の人生そのものに興味が湧いてきました。
    いつも質の高い記事をありがとうございます。
    どうぞ楽しいクリスマス、よいお年をお迎えください。
    来年もよろしくお願いします。

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  2. コニコさん、ほんとうにお久しぶり!
    今年の後半は特にものすごく忙しくなってしまって、読んだ本のほとんどをレビューできずにいます。
    来年こそは、と思うのですが、毎年そんなことを思っていそうな気もします(笑)。
    この本はとても良質でしたので、おすすめです。
    ワイリー社がコミック版を出して、それを私にフェデックスで送ってくれたらしいのですが、行方不明になってしまったようです。そちらも面白いと良いのですが…
    メリー・クリスマス&これからもどうぞよろしくお願いします。

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