史上最大の金融詐欺事件にヒントを得た金融スリラー The Darlings

Christina Alger
ハードカバー: 352ページ
出版社: Pamela Dorman Books(ペンギン)
ISBN-10: 0670023272
ISBN-13: 978-0670023271
発売日: 2012/2/16
小説/金融スリラー

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日本ではあまり話題にならなかったので知らない人もいるかもしれないが、アメリカでは、バーナード・マドフ事件(実際の発音はメイドフ)を知らない人はいない。藤沢数希さんの「金融日記」の情報が分かりやすいので、そちらを参考にしていただくのが良いかと思うが、簡単に言えば、世界で最もお金持ちの層を巻き込んだ信じられないほど巨大な金融「ネズミ講」である。

マドフに投資してもらうためには、世界のトップ0.1%くらいの大金持ちか、有名人である必要があったので、多くの金持ちは、友人知人のコネを利用してマドフに紹介してもらい「投資させていただいた」のである。マドフに投資させてもらえることが、「ステータスシンボル」でもあった。

私の姑の周囲には、ゆったり人生の終盤を楽しもうとしているときにマドフのために全財産を失って自殺した人やいくつもあった豪邸を売り払った人がいる。それほど多くの人々の人生を狂わせた事件だった。

これまでにいくつかノンフィクションが出ているが、「The Darlings」は、そのマドフ事件を題材にした金融スリラーである。


ニューヨーク市のウォール街で有名なヘッジファンドの会社を経営するCarter Darlingは金融界の大物で、彼を知らない者はいない。彼と、彼の妻Ines、2人の娘(Merrill, Lilly) はニューヨーク社交界の貴族的存在である。
Carterのヘッジファンド会社は、1/3以上を有名なMorty Reisの証券投資会社に運用させている。金融危機のさなかでもCarterの会社が強かったのは、高利回りのMortyの投資運用があったからだった。

Carterの長女Merrillと結婚してDarling一家の新たなメンバーとなったPaulは、リーマンショックの後職を失い、Carterの会社で雇ってもらった。多くの者が職をみつけられずにいる状況で、高収入の職を得たPaulはラッキーだと感謝していた。
だが、感謝祭寸前のMortyの自殺をきっかけに、巨大な ネズミ講が明らかになる。
感謝祭で金融市場を含めすべての仕事がストップしている間も、この危機に関わる多くの者の間で、自分の崩壊を食い止めようとする激しい闘いが繰り広げられる。

著者Christina Algerは、ハーバード大学卒業、ニューヨーク大学法科大学院修了という学歴を持ち、ゴールドマン・サックスにつとめていたこともある。それゆえ、本書で描かれている世界にはリアリティがある。

スリラーの点では、いまひとつ最後の盛り上がりに欠けるが、金融の世界とニューヨーク市の大金持ちの世界が覗き見できるのは面白いと思う。これほどの「ネズミ講」が起こる環境のシンプルさにも驚くだろう。

登場人物への感情移入は少々難しいかもしれない。著者は彼らを人間的に描こうとしているが、こういう世界にどっぷり浸かって生きてきた著者には無理じゃないかと思う。
登場人物たちはお金持ちではない人を「トライしたのに失敗している人」と見下している。世界には、そんなことをまったく望んでいない人が山ほどいるのだが、そういう視点がすっかり欠けている。金融スリラーには無用だからかもしれない。でも、私には著者がそういう人とお友達になる機会がなかったからなのだと思えた。

私は、リアルの世界でこういう人たちと関わることがけっこうあるので、彼らがそれ以外の視点を持たないし、持てないのが理解できる。つき合っている人たちがみんな同じことを考えているので、いつのまにか、世界が全部そんなふうにできていると思い込んでしまうのだ。

そういう意味で、個人的にけっこうニヤニヤするところが多かった。特にPaulが初めてMerrillのハンプトンの別荘に招かれたところとか。こういう金持ちになりたくないし、友だちにもなりたくないと昔から思っているのだが、日本の読者もこれを読めば、大金持ちがそんなに羨ましくないということがわかるだろう。

●読みやすさ 普通からやや読みやすい

こういうスリラーは、特別に芸術的な表現がないし、含みもないから、読みやすいと思う。金融のことを知らなくても、説明されているから、内容はよく分かるだろう。

●おすすめの年齢層

性的表現はごくわずか。暴力シーンなし。中学生以上からOKだが、金融スリラーにはたぶん興味はないだろうから、高校生以上対象。

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