混沌とした19世紀のニューヨーク市を徘徊できる歴史ミステリー The Gods of Gotham

著者:Lyndsay Faye
ハードカバー: 432ページ
出版社: Amy Einhorn Books/Putnam
ISBN-10: 0399158375
発売日: 2012/3/15
歴史小説(19世紀ニューヨーク市)/ミステリー

2012年「これを読まずして年を越せないで賞」候補作(春巻さん推薦)

1845年、ニューヨーク市はヨーロッパから毎日のように到着する移民のために混沌とした状態になっていた。ことに、大飢饉が始まっていたアイルランドからの移民が多く、アイルランド系移民がニューヨークの最も貧しい層を形成していた。

バーテンダーのTimothy Wildeは幼なじみのMercy Underhillを密かに慕っており、貯金をためてプロポーズするつもりでいた。けれども、幼いころに両親を失ったときのように、火事で貯金をすっかり失い、顔を火傷してしまう。

Mercyにプロポーズする権利はなくなったと思ったTimothyは、Mercyの前から姿を消し、兄Valentineの紹介でしぶしぶ新しいニューヨーク市警察の警官になった。


警官であることをさほど誇りには思っていないTimothyだが、バーテンダーとして人を観察することに慣れていたために推理力を発揮して警察署長(実存のニューヨーク市最初のPolice Chief)であるGeorge Washington Matsellに一目置かれる。

ある夜、Timothyは血まみれの寝間着(nightdress)を着た10歳くらいの少女が逃げているのを見つける。

それに引き続き次々と子どもたちの死体が見つかる猟奇事件が明らかになり、そのニュースに政治、宗教、人種差別の問題がからんでニューヨーク市は緊張した状況になる。

●ここが魅力!

GothamというとバットマンのGotham Cityを連想すると思いますが、ニューヨーク市のニックネームです。

この小説の魅力は、なんといっても1845年の混沌としたニューヨーク市の雰囲気です。

ニューヨーク市は、新しい国家であるアメリカ合衆国の中でも特に自由を重んじる場所だったので、いろいろな宗教と人種が集まっていました。また、制約のない資本主義を利用して富を蓄える裕福な層と、彼らが必要とする労働を提供する層のどちらも存在しており、今のニューヨーク市の元になっています。

すでにmelting pot(人種のるつぼ)だったニューヨーク市に新たに加わった貧困層がアイルランド人でした。

1600年代、最初にアメリカ大陸に来たヨーロッパ人は、宗教の弾圧を逃れるためにイギリスを離れたピルグリムとピューリタンでした。つまり、アメリカ合衆国に最初に定着したキリスト教は、聖書の教えを重んじるプロテスタントだったのです。彼らはローマ法王という人間を神のように敬うカトリックへの偏見があり、それが貧しいアイルランド人への偏見と差別にも繋がっていたのでした。

このミステリーに登場する子どもの娼婦や男娼も、犠牲者たちもアイルランド人です。それが何を意味するのかが、このミステリーの重要なところです。

次に魅力なのは、主人公のTimothyの男らしい純情さです。

特に好きな女性を神聖視するところとか、兄のValentineに対する怒りや正義感がちょっとナイーブすぎて心配になったものですが、逆にそういうところがハードボイルドで好感が持てるとも言えます。バーテンダーの彼が人間観察が得意だという部分で、私はなぜか村上春樹氏を連想してしまいました。確かにそうかもしれません。

著者は女性ですが、男性の読者のほうが彼に感情移入しやすいかもしれません。

2年連続『これを読まずして年は越せないで賞』の審査員をお願いしている春巻(@harumaki_r )さんが2012年の候補に推薦してくださいました。

春巻さんが、この本を読むのに役立つ豆知識を紹介されていますので、彼女のブログ「春巻雑記帳」を参考にしてくださいね。

まだ年末までには時間がありますが、みなさんぜひお読みくださいませ!

●読みやすさ やや難しい

文章そのものはそう難しくないのですが、Flashというニューヨーク市の悪党たちが使っていたスラングや当時の表現が使われていて、それに戸惑います。一応辞書のようなものがついているのですが、それでは足りないことも。でも読み進めて行くうちにだんだん「ああ、これはこういう意味で使われているのだな」と分かってきます。

●おすすめの年齢層

年少の娼婦といった話題が出てきますし、子どもの残酷な死なども沢山出てきますので、精神的に成熟度が高い中学生か高校生から大人が対象です。

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