いじめに対して「親切でいる勇気を選ぼう!」と語りかける本 Wonder

R. J. Palacio

ハードカバー: 320ページ

出版社: Knopf Books for Young Readers

ISBN-10: 0375869026

ISBN-13: 978-0375869020

発売日: 2012/2/14

児童書(小学校高学年から中学生対象)/小説/いじめ

2012年「これを読まずして年は越せないで賞」児童書部門候補作(ちょこさん、Monaさん推薦)

 

August(オーガスト)は、非常に稀な遺伝子疾患により生まれつき顔に形態異常がある。幼いときから何度も手術をくり返して来たので、学校には通えず、自宅で母親から勉強を教えてもらっていた。

賢いAugustを自分で教育することの限界を感じた母親は、5年生(この小説の舞台になっているニューヨーク市の学区では中学校が始まる学年)から私立学校のBeecher Prepに入学させることを提案する。

最初は激しく拒絶していたAugustだが、「いつやめてもいい」という条件で中学校に入学することを受け入れる。


ふつうの子のように友だちを作ってふつうの学校生活を送るというAugustの夢は、初日から破れてしまう。生徒たちはAugustの顔を見て悲鳴をあげたり、じろじろ見つめたりするのだ。そのうちに、級友らは「触ると疫病が伝染る!」とおおっぴらに彼を避けるようになる。

親切な学校のディレクターがあらかじめ紹介してくれた3人の生徒のひとりは率先してAugustを苛め、ひとりは役割が終わると無視する。たったひとりだけ隣の席に座ってくれた少年も、昼食のときにはAugustを置き去りにする。

ひとりぼっちで昼食を食べているAugustのテーブルにやってきた少女Summerとは友だちになるが、彼女の友情すら信じられなくなる事件が起こる。

Augustだけではなく、同級生、姉、姉の友だち、姉のボーイフレンド、と異なる人々の視点で交互に語られるこの小説は、いじめの背景にある心理や、「親切」であることの勇気を現実的に語っている。

●ここが魅力!

私は娘が小学生のとき、学校の校長、教師、保護者で構成されている「反偏見委員会」のメンバーでした。レズビアンのお母さんや異なる国からの移民など、「ふつう」とはちょっと異なる保護者が集まっていたのですが、教師を含めて「友だち」のような気さくな関係で、ときおり誰かの自宅に集まってポットラックパーティをしたりしたものです。

「いじめ対策」はもちろん話題の中心で、原因や対策について、熱い討論を交わしたこともあります。

生徒を取材したこともあるのですが、「いじめを体験したことも、目撃したこともない」という生徒がほとんどだったのは、教師の雇用時点から「いじめ対策」を念頭に置き、トレーニングと教師のサポートが徹底していたからだと思いました。

そして、教師と保護者の「恊働」も重要な部分だったのです。

本書Wonderを読んだとき、私はこの「恊働」を思い出しました。

あのときのグループのメンバーは、「自分のため」でもなく、「わが子のため」でもなく、「学校のすべての子」が安心して通える環境をつくるために協力していたのです。

学校のすべての親がそうではなく、そのために全米から攻撃のターゲットにされるような事件に巻き込まれたこともあります。そのときでも、私たちは「一緒にがんばろう!」と支え合ったものです。仲間がいたからやれたことでした。

学校での「いじめ」が問題になるとき、多くの人は「いじめ」の加害者や学校を責めるだけで満足してしまうようです。けれども、それをするたびに、学校は萎縮してゆき、「問題を起こさない」というよりも「問題を隠蔽する」方向に走りがちです。無責任な憤りは、「いじめ」をなくすことには貢献しません。かえって有害だと私は思っています。

この「反偏見委員会」で私たちが勉強したことのひとつが、bystander(第三者、その場に居合わせる人)の重要性です。

「いじめ」がおこったときに、周囲に「やめなよ」と仲介に入る子のほうが多かったら、加害者がそれを続けられる雰囲気がうまれません。ターゲットになる子が孤立しないように遊びにつきあう子が増えれば、クラスでの「しかと」は成立しなくなります。幼稚園のときから、すべてのクラスですべての先生が同じルールに従っていたので、5年生くらいになるとそれが当たり前になっていました。

問題は、大人の権威が薄れる中学校(私の住む町では6年生から)で、この3年間が最も「いじめ」の多い期間です。「ポピュラー」な子どもたちが他の子を操るという傾向は、「Wonder」にも出てきます。この時期の子どもたちが、「choose kind(親切であることを選ぶ)」というのは勇気を要する行動です。けれども、(少数であっても)それを認めて、育む保護者と教師が手をつなげば、実現可能なことだと思うのです。

「いじめられる子にも問題がある」という人がいます。

私もいじめられたことがあるので、それらの人が何を言いたいのかなんとなく想像はできます。

幼稚園のときの写真を見ると、女の子でスカートをはいているのは私だけでした。幼稚園に入園する前から読み書きができて教師の質問に全部答えるのも「生意気だ」と苛められるきっかけになりましたし、これまで大人相手にしてきて喜ばれた姉や妹の話をすると「自慢話ばっかり」と言われました。読んだ本の話ばっかりするのも嫌われる元でした。だって、それらの本は誰も読めなかったのですから。

子ども同士のつきあいのルールを知らなかった私は「見てるだけで、イライラする子」だったのだと思います。

Wonderは、いじめの元になっている「偏見」や「差別」を頭ごなしに否定しません。

Augustの顔は、誰でも驚くほど醜いのです。ですから最初に会ったときには、みんな驚くし、気味が悪く思います。そう感じる気持ちがあるにもかかわらず、それでも「親切」であることを選ぶ。そこに意味があると語っているのです。

私の娘と今では仲良しになったある少女の関係もそうでした。

最初は「同情心」や「親切であろう」という純粋ではない動機であっても、そこから「本物」の友情が生まれ、自分にとっても大切なものに育ってゆくことがあるのです。それを教えてくれるのがこの本の良いところです。

障害を持っている子の兄弟姉妹の心理を紹介しているのも優れたところです。

この本を読んで、日本のひとは「こんなのはあり得ない」と思うかもしれません。でも、私は実際にこういう親、教師、学校を知っています。

「いじめ」をなくすのは、たぶん「親切」の秘めている膨大な力を信じる人を集めるところから始まると思うのです。

Wonderは、「反いじめキャンペーン」のサイトも作っています。

Wonder

 

●読みやすさ やや読みやすい

 

小学校高学年から高校生の一人称で語られていますので、そう難しい単語はありません。また文法も簡単です。

 

●おすすめの年齢層

 

小学校高学年から中学生が対象の児童書ですが、親や学校の教師にもぜひ読んでいただきたい本です。

 

 

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