「紙媒体vs電子書籍論争」を連想させる軽くて深い風刺小説 Mr. Penumbra’s 24-Hour Bookstore

Robin Sloan
ハードカバー: 288ページ
出版社: Farrar Straus & Giroux
ISBN-10: 0374214913
発売日: 2012/10/2

文芸小説/現代小説/出版業界とIT業界の風刺

『これを読まずして年は越せないで賞』2012年候補作(渡辺推薦)

 


邦訳版

サンフランシスコのトレンディなベーグルショップで広告デザインを担当していたClay Jannonは、不景気のあおりを受けて失業してしまった。たいしたキャリアのない彼は再就職どころか面接にもこぎつけない。「仕事さえあれば何でもいい」という心境になっていたClayがようやくみつけたのが、24時間営業の本屋の「夜勤」の仕事だった。


その本屋は、「Mr. Penumbra’s 24-Hour Bookstore(ペナンブラ氏の24時間営業書店)」という奇妙な名前で、中はもっと奇妙である。

狭い店内には上を見上げると天井が闇に消えて行くほど高くそびえる本棚があり、そこに並んでいる本にはISBNがないのだ。店主のMr. Penumbraは、Clayに「決して中を見てはならない」といった謎めいた約束をさせる。

普通の本もあるにはあるのだが、そのコーナーはわびしいもので、それらを目当てに来る客はほとんどいない。

どうやらこの本屋は謎の本棚にある本を求めてやってくる常連客のために24時間開いているようなのである。

「決して中を見てはならない」と言われていたが、それを守ることができなくなってしまう。

 

●ここが魅力!

500年前に作られた本に潜んでいる謎、それを守り続けるカルト集団、この世にあるすべての本をスキャンして電子書籍化(Google Books)しようとするGoogle…と、現実社会で起こっている「紙媒体 vs 電子書籍論争」に、少年たちが虜になる冒険ファンタジーを加え、そこにアメリカ西海岸のギークな若者たちを送りこんだような小説です。

著者はPoynter, Current TV, Twitterというインターネットのギーク世界で働いてきたインサイダーですから、全体にちりばめられた風刺がとっても的確です。著作権とか違法ダウンロードなど、この分野に詳しい人が読むとニヤニヤせずにはいられない箇所が沢山あり、「わかる、わかる!」と何度も本に向かって相槌を打ってしまいました。

これまで、自分で体験せずに二次体験でインターネットの世界を描く文芸小説家や脚本家の作品にイライラしていましたので、わかりやすくて面白い「文芸小説」はかえって新鮮にも感じます。

ふつうの読者が楽に筋を追うことができ、軽いタッチの本なのに深いメッセージもあります。大作であることを目指すより、読後感の良さを目指したところも好感が抱けます。

 

ところで、Penumbraという名前ですが、これに隠された意味があると思いました。ここではばらしませんので、本を読みながら考えていただきたいと思います。

 

●読みやすさ 普通からやや難しい

英語そのものはシンプルです。

ITや電子書籍について情報を追っている人にとっては、分かりやすいし、面白い本だと思います。

けれども、そのあたりの事情をまったく知らない人にとっては、英語が分かっても何が起こっているのか、どこが面白いのか通じないかもしれません。

したがって「やや難しい」としました。

 

●おすすめの年齢層 

性的なシーンは非常にマイルドで描写はほとんどないのですが、最低限Googleや電子書籍についての予備知識がないと面白くないと思います。

従って、中学生以上でそれらの分野に興味がある人におすすめします。

 

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