リアルな胸の痛みを感じさせる青春小説 The Sea of Tranquility

ペーパーバック: 448ページ

出版社: Atria Books; Original版

ISBN-10: 1476730946

ISBN-13: 978-1476730943

発売日: 2013/6/4(ペーパバック)、キンドル版は2012年11月

青春小説/恋愛/心理ドラマ

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胸や脚を露出した黒いドレスにハイヒール、という娼婦のような格好で新しい学校に現れた転校生の少女Nastya
Kashinikovが濃い化粧の下に隠しているのは、素顔だけではなかった。それは、彼女の過去であり、壊れてしまった彼女の心だった。

ロシアからの移民を示唆するエキゾチックな名前に白磁のような肌、しかも言葉をまったく喋らない彼女のイメージを、同級生たちは勝手に作り上げて行った。男子生徒は彼女を軽くなびく女だとみなして声をかけ、女子生徒は男子生徒が注意を払う彼女に敵意を抱いた。


故郷から離れた町に転校したのも、外見のイメージだけで誤解されて孤立するのも、本当の自分を知られずに暮らすためのNastyaの戦略だった。誰ともかかわらずに無事に授業を終えることだけを目指していたNastyaだが、ある少年の存在が気になって仕方なくなる。昼食の時間も授業中も、彼の周囲には誰も近づかないのである。

 

8歳のときに母と妹を失い、その悲しみから立ち直らなかった父を数年後に心臓発作で失ったJosh
Bennettは、行き場のない怒りを同級生への暴力で対応してきたため、高校生になった今は人々から完璧に避けられるようになっていた。それは、彼が望んで作り出した孤独なのだった。

好きな家具作りだけに専念し、誰とも情動的に関わらずにすむ孤独の安楽さを享受していたJoshのガレージに、ある夜ジョギング中に迷ったNastyaが現れる。

 

ふたつの傷ついた魂は、安全な距離を確かめつつ、絶望と希望と渇望に揺れ動きながら、その距離を縮めて行く。けれども、運命と愛を怖れる二人にとって、安全な距離などはないのだった。

 

●ここが魅力!

2012年11月に電子書籍として刊行された直後から、高校生や大学生がネットの口コミでファンを広めた作品です。2013年の夏に紙媒体で発売されることになっています。

私がこの作品を知ったのは、ソーシャルメディアで若者と直接触れ合っている作家のジョン・グリーンのVlogでした。彼がおすすめの作品を紹介しているときに、何人かのファンが「これも読むべきだ」とすすめていたのです。

あまり期待せずに読みはじめたのですが、読みはじめてすぐにジョン・グリーンファンの若者に愛されている理由が分かりました。

近年流行のYAファンタジーの主人公は、どんなに逆境にあっても、それを容易に乗り越えてヒロイックに闘います。不幸があっても、それに愚痴を言わず、社会正義や世界の存続のために命をかけるのですが、現実はそんなものではありません。

傷ついた心は、そう簡単に癒せるものではないのです。

また、ロマンスでは出会ったそのときから主人公達はメロメロに恋に落ちますが、やはり現実とはそんなものではありません。

思春期の恋は、「何か気になる」から始まり、相手の感情だけでなく、自分の感情すら疑いながら、相手を傷つけ、自分も傷つけて、進むものです。

The Sea of Tranquilityは、その胸の痛みをリアルに描いています。

Nastyaの秘密は徐々に明らかになってゆきますが、そのゆっくりさも、実はこの作品では重要な部分ですから、Joshの気持ちになって辛抱強く読んでいただきたいです。

登場人物がみな美しいという設定があまりにもふつうのYAすぎるのですが、それを別にすれば、脇役を含めて全員のキャラクターに好感を抱けます。

なお、「The Sea of Tranquility」とは月面の「静かの海」のことで、「死んだ後、人がどこに行くのか」というJoshとNastyaの対話の中で出てきます。

大手の出版社が紙媒体で刊行しているYAものよりも、ずっと読みごたえがある作品でした。

 

●読みやすさ 読みやすい

YAものですし、専門用語はありませんし、2人の主人公が交互に一人称で語るスタイルですから、読みやすい作品です。

 

●おすすめの年齢 高校生以上

性の問題を取り扱っていますので、高校生以上

 

 

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