ブッカー賞の戦略的な変身

『洋書ベスト500』でいくつかの文学賞を紹介しているが、ブッカー賞(The Man Booker Prizes)はその中で最も由緒ある文学賞のひとつである。対象になるのは、(オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、インドなどを含む)イギリス連邦にアイルランド共和国とジンバブエを加えた国の作家である。

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だが、2014年からは英語で創作する作家すべてが対象になるという発表があり、『賞をアメリカナイズするのは、マーケティングの策略にすぎない」といった論争が起こっている。

創設から45年間、良くも悪くも「対象にアメリカ合衆国の作家が含まれていない」のがブッカー賞の重要なアイデンティティだった。だから、アメリカ合衆国の作家を賞の対象に含めるのは、論争に値する重大な変化である。

しかし、アメリカ合衆国の作家を含めても審査員が変わるわけではない。アメリカの「全米図書賞」とは異なるアイデンティティは保たれるだろう。かえって、ブッカー賞のアイデンティティを見直す良い機会かもしれない。

また、時折国際的ベストセラーを生むものの、候補作と受賞作に一般読者には読みづらい「通好み」が多いのもブッカー賞の特徴である。それゆえに、多くの潜在的読者から注目してもらえるこの戦略的な変身を、現時点ではポジティブに評価したいと思うのだ。

だが、審査員の立場だとそんな気楽なことは言えないだろう。文芸エージェントの大原ケイさんが書いておられるように、これまで以上に候補作を読まねばならぬ本が増えるのだ。

「そんなに本を読んでいると、他に何もできなくなるのではないか?」と心配してしまうのは、私自身が「積読本」に埋もれて生きているからかもしれない。

 

 

2 thoughts on “ブッカー賞の戦略的な変身

  1. ”ブッカー賞のアイデンティティ”、これが一番の問題なのかもしれませんね。今までは限定地域の応募者・ライターという部分に、賞のアイデンティティ自体を頼っていた部分もあるのでは? 
    ”イギリスらしい”作品を守りたいというのであれば、別カテゴリでインターナショナルでも作れば良さそうなものです。(大原ケイさんのおっしゃるように、スポンサーや賞金などの絡みもあるのだったら、そうシンプルにはいかないのでしょうが・・・)

  2. こんにちは、imuzak12さま
    これもブッカー賞の方々の「生き残り対策」なんだと思うんですよね。
    これまでのままで上手くいっていたら、たぶん考慮しなかったと思うので。
    ただ、アイデンティティは消えて欲しくないので、「ブッカー賞とは何なのか?」、「どんな作品を選ぶのか」ということを、見直す機会にしえもらえば嬉しいなあ、と「読者」の立場で思ったりします。
    外野としては、どうなるか興味津々です。

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