時代を先取りしていた女流作家にあらためて脱帽する古典『North and South』

著者:Elizabeth Gaskell
出版年(国):1855年(英国)
ペーパーバック: 480ページ(Penguin Classics Revised版)
ISBN-10: 0140434240(キンドル版は米国で無料、日本では99円)
ジャンル:古典、文芸(『ジャンル別 洋書ベスト500』の古典ジャンルでご紹介)
適正年齢:PG12(中学生以上)
難易度:上級(ネイティブの普通レベル)
キーワード:ビクトリア時代、階級、資本主義、社会問題、ラブストーリー

あらためておすすめしたい古典シリーズ

 

ビクトリア時代の英国では、貴族や地主の階級が住む南部と、工業が盛んになっている北部には、環境だけでなく、社会経済的な差が作りあげた文化や習慣、考え方の差があった。裕福な叔母のロンドンの邸宅でしばらく暮らしていたMargaret Haleは、姉妹のように親しくしていた従妹の結婚後、両親が住む南部の田舎町に戻った。ロンドンの社交生活が苦手で自然を愛するMargaretは、ようやく戻ることができた南部の生活に満足していたが、倫理を重んじる牧師の父親が教会と縁を切り、家族は北部に移住することになる。


北部にある工業都市のMilton(マンチェスターがモデル)に着いたMargaretは、紡績工場の騒音と煙突からの煙、そして労働階級の貧困者たちの暮らしにショックを受ける。そして、父親が個人教師をすることになった紡績工場主のJohn Thorntonに嫌悪感を抱く。父の死後、人一倍の努力と知恵で財を築き上げたThorntonは、労働者たちの怠惰を蔑み、労働組合と対立していた。南部の貴族的な価値観ではtrading(商業活動)は蔑まれており、Margaretにはその先入観もあったので、最初の印象は非常に悪かった。

Margaretは紡績工場の労働者の家族と親しくなり、彼らとThorntonが人間同士として理解しあうことはできないかと思い働きかける。いつしか、MargaretとThorntonは互いへの愛情を深めるが、すでに誤解しあっている二人は相手が自分を嫌っていると思い込んだままである。

Margaretは、不幸な周囲の人々を健気に支えるが、彼女を支える者はいない。両親はそれぞれのメランコリーに心を奪われていて、娘の心情を思いやるゆとりがない。それどころか、娘に頼り切る。次々と苦難に見舞われるMargaretだが、自分なりの生き方を通すプライドだけは失わないことを決意する。

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大学の休みで帰宅している娘とふとしたことからGaskellの『North and South』の話題になりました。

恋愛物語の設定としてはジェイン・オースティンの『Pride and Prejudice』とよく似ているのですが、異なるのは、社会問題を多く扱っていることです。南部と北部の間の誤解と偏見(貴族階級と資本主義のニューリッチ)、社会経済的な階級間での誤解と偏見(雇用主と被雇用者の権利と義務)、労働組合の実情と是非、男女の役割の変化(Margaretの独立心と行動力)、そして宗教に関しても、現在の米国でも通用しそうな公平な視点で問題提議をしています。

そのあたりがぎっしり詰まっているところがすごい…と語っていたのですが、ところどころ話がすれ違います。

そのうちこんなことを。

「Thorntonがせっかく告白してるのに、Margaretは"I don't like you"とかひどい〜」

「だって、Margaretは彼のことを労働者階級への理解や尊敬がない高圧的な雇用主だと思っていたんだから…」

「でも、彼は実際にはそんな人物じゃないのに、かわいそう」

「この時点ではそれがMargaretにはわからなくて当然なんだから仕方ないじゃない」

「それはそうだけれど、Thorntonって、すごくセクシーじゃない?」

「セクシー?Thorntonが?」(原作のイメージでは、逞しい荒削りタイプ)

「Richard Armitage、すっごくセクシーだった」

なんと、彼女は2004年作のBBCのミニシリーズの話をしていたのでした。

Screen Shot 2014-01-03 at 6.51.57 PM私は原書でしか読んでいないし、娘はドラマしか観ていない。そこで違いが現れるというのが、当然だけれども、面白い体験でした。

どこが違うのか興味があったので、ざっとNetFlexのストリーミングで観てみたところ、大小あわせて記憶と異なるところがけっこうありました。

原作のMargaret Haleはもっと若くて、ストイックで芯が強いタイプだったように思いました。そして、原作のほうが不幸がどんどん積み重なる描写が長く、そのあたりの苦悩がけっこうくどいです。けれども、MargaretとThornton両者の心境描写については、詳細があるからこそ読み応えがありました。この原作は、かのチャールズ・ディケンズが編集していた週刊文芸雑誌『Household Words』に連載されていたもので、それを考えると、さらに面白さも増すかと思います。今とはまったく異なる意味になっている英語の表現も多いのですが、それでも現代の作品と変わらない感覚で読める、入り込みやすい本です。

ネタバレするのでストーリーの違いについて詳しくは語れないのですが、ドラマのほうが不幸がちょっと少ないです。Dixonとか脇役はもっと親しみが持てるキャラでしたし、Thorntonのお母さんにも同情できるようにしてくれたのはプラスだったかも。

ドラマの良さは、なんといっても、眉間の縦皺と目だけで乱れる心情を表現するリチャード・アーミティッジのThornton。あれだけでも観る価値はありますぞ。

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