他人の「痛み」への共感をテーマにした注目のエッセイだが。。。『Empathy Exams』

著者:Leslie Jamison
ペーパーバック: 226ページ
出版社: Graywolf Pr
ISBN-10: 1555976719
発売日: 2014/04
適正年齢:PG 15(高校生以上)
難易度:最上級レベル(難解な表現が多く、文章もまわりくどい)
ジャンル:エッセイ
キーワード:empathy, 共感、感情移入、医学生のトレーニング、難病
賞:Publishers Weeklyの2014年春トップ10エッセイ

 

アメリカのメディカルスクール(医学大学院)では、学生をトレーニングするために患者の演技するアルバイトを雇う。アルバイトに雇われた役者(medical actor)は、自分が扮する患者についてのディテールを受け取るのだが、それは病名だけではなく、家族から仕事まで詳細にわたるものである。
著者のLeslie Jamisonは、ハーバード大を卒業した後、このmedical acotorのアルバイトをしていた。そのときの体験と、患者としての体験を元に書いたエッセイだという。


病院で勤務した経験がある私にとって興味深い内容だし、"soaring performance on the humanizing effects of empathy"(NPR)"Extraordinary and exacting. . . . This capacity for critical thinking"(ニューヨーク・タイムズ紙)と大絶賛なので、喜び勇んで手にとった。

だが、読めば読むほど深まったのは「違和感」と「不快感」だった。
プロの書評家たちは、Jamisonは「ハートと頭の両方を使っている」と褒めるのだが、私はそう感じることができなかったのだ。

若いJamisonとのジェネレーションの差なのだろうか?それとも日本で育った私とアメリカで育った彼女のカルチャーの差なのだろうか?

そこで、コロンビア大学でpre-med(医学大学院進学コース)を学んでいる娘に「読んで感想を聞かせて」と頼んでみた。先入観を避けるために何も言わなかったのに、娘の感想は私と同じような「違和感」と「不快感」だった。

病で個々が感じる辛さや痛みは、その人個人のものである。医療従事者は、より良い治療のためにそれを理解する努力をするのだが、それにあまりにも多くの意味を持たせるのは危険である。医学大学院で役者を使ってトレーニングする目的は、ただ単に「より良い治療」のためなのだ。それ以上でも、それ以下でもない。
だが、著者はそれらのキャラクターに人格を与えて精神分析のように掘り下げ、それ以上の意味を持たせている。
かと思うと、最後のエッセイではケイト・ブッシュ的な「女性の苦悩の表現」に手厳しい。

また、私たち読者がふだん感じている共感を冷たく否定しているくせに、患者としての自分の体験を私小説的に掘り下げて意味をもたせているのも矛盾しているように感じた。読んでいるうちに不愉快になってきたのは、著者のmindとheartの置き場所が、私とは逆だからかもしれない。

また、Jamisonのエッセイは、いかにも「大学の文章教室で学びました」という感じでクレバーすぎる。だから、普通の読者の心に届かないのではないだろうか? そこにも苛立ちを覚えた。プロの評価者のためのエッセイではないかと。

私は、テクニックだけすぐれていて心に届かない文章が好きではない。だからこのエッセイを通常より厳しく評価するのかもしれない。

しかし、「アメリカで評価されるエッセイとはどういうものか?」というのを教えてくれるエッセイとしては読む価値があるだろう。

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