第六絶滅期はすでに始まっている。次の「アンモナイト」は人類だ。『The Sixth Extinction』

著者:Elizabeth Kolbert
ハードカバー: 319ページ
出版社: Henry Holt & Co
ISBN-10: 0805092994
発売日: 2014/2/11
適正年齡:PG15(中学生でも読むことはできるが、背景にある科学を理解するためには高校生以上)
難易度:中級〜上級(文章そのものは中級レベル。単語と文章の理解では上級レベル)
ジャンル:一般ノンフィクション/博物学(natural history)/ルポ
キーワード:第六絶滅期、絶滅危惧種、自然科学、恐竜、アンモナイト

2014年「これを読まずして年は越せないで賞」候補作

 

「絶滅種」という言葉で日本人がすぐに連想するのは、恐竜、マンモス、ドードー鳥といったところだろう。

種の絶滅は小規模では絶え間なく起こってきたが、ある一定の時期に集中して多数の種が絶滅する『mass extinctions(大量絶滅)』が、過去に5度あった。Ordovician-Silurian、Late Devonian、Permian、Triassic-Jurassic、Cretaceous-Tertiary(K-T)【オルドビス紀末、デボン紀末、ペルム紀末(P-T境界)、三畳紀末、白亜紀末(K-T境界)】の中でも、歴史上最大の大量絶滅が起こったのが、P-T境界(約2億5100万年前)のPermian(ペルム紀末)で、96%の種が絶滅した。

Triassic period(三畳紀)後半からJurassic(ジュラ紀), Cretaceous(白亜紀)に栄えた恐竜が絶滅したのが、最後のCretaceous-Tertiary(白亜紀末)だ。


こういった過去の大量絶滅期については何度もテレビや本で目にしたり耳にしたりするので、「絶滅」というと、「自分には関係ない、遠い過去のこと」という感覚も抱くのではないだろうか。

だが、いま、この瞬間にも、私たちに馴染みある多くの種が地球上から姿を消しつつあるのだ。すでに、6回めの大量絶滅は始まっている。過去の大量絶滅以上のスピードで。

しかも、その原因は、私たち人類なのだ。

ニューヨーカー誌(The New Yorker)の常勤ライター Kolbertは、過去5回の大量絶滅を説明したうえで、「第六絶滅期」の現状とそれを食い止めようとする科学者の闘いを語っている。

環境に関する話題は、政治にも深く関わりがあるので、人々は熱くなりやすい。地球の温暖化についても警鐘を鳴らす人と否定派の間では話し合いすらできない状態だ。書物も、アジェンダを押し出しすぎて、それに同意する人しか読まない傾向がある。

本書の優れているところは、著者が過剰にドラマチックでも煽動的でもないことだ。中立的なジャーナリストの視点で、現在起こりつつあることと、それらに関わる人々を淡々と紹介していく。読者は、彼女と一緒にそれらを体験し、自分で進行しつつある「第六絶滅期」について考えることができるのだ。

本書で紹介されているアメリカ合衆国東海岸のコウモリの真菌感染例は、私の身近で起こっていることなのですぐにひきこまれた。私がボストン近郊に越してきた1995年には夕方になると空にコウモリが沢山羽ばたいていたのに、今ではほとんど見かけなくなった。また、数年前に訪れたパナマのジャングルでほとんどカエルの姿を見かけなかったのも、本書にあるとおりだ。

それほど、ものすごいスピードで種の絶滅が進んでいる。

だが、第六絶滅期の原因は、よく話題になっている「地球温暖化」だけではない。

私たちの自己中心的な「食欲」も原因のひとつだ。

ネアンデルタール人と性交渉はしたくせに絶滅させてしまったほど自己中心的なのが現生のヒト(ホモ・サピエンス・サピエンス)である。ヒトは、ありとあらゆる場所で、後先考えずに目につくものを食べ尽くしてきた。アメリカ大陸のマストドン、ニュージーランドのモア、モーリシャス島のドードー、北極のペンギンと呼ばれたオオウミガラス……ときりがない。

過去の大罪リストを見て、「なんて奴らだ!」と思うかもしれないが、「他人から注意されても食べたいものをやめることができない」ことでは日本人も世界で有名だ。うなぎ、マグロ、ナマコと絶滅に瀕している種を食べることをやめることができない。

ナマコについては「日本はアジアの他国ほど消費していない」という意見はいくつも読んだが、昨年、ナショナルジオグラフィックの船でガラパゴス諸島に行ったとき、現地出身のナチュラリストから「私たちはナマコなんか食べないが、日本人がここのナマコを買いあさっている」と言われた。そこで「いや、中国のほうが沢山買ってますよ」なんて言い訳しても仕方ない。比較した量が他国より少なくても、食いつくすことに関わっている事実は否めないのだから。

著者が何度も書いているが、種が絶滅するかどうかには、rateつまりスピードが非常に重要なのだ。生殖のスピードを超えるものでなければ生き延びることができるが、それをいったん超えると、もう後戻りできなくなる。「まだ数はあるから大丈夫」などと言い訳をしているうちに、後戻りできない数になる。

地球上の海の隅々まで分布していた美しいアンモナイトたちも、すっかりと姿を消したのである。こんなに繁栄している私たちヒトも、次の大量絶滅では生き残れないだろう。この壮大な絶滅期をリアルタイムで体験しているというのは凄いことだが、わかっていて止めることができないヒトの愚かさには落ち込まずにはいられない。

第六大量絶滅期を生き残るのは、ネズミのようだが、発達したネズミたちが数百万年後にヒトの骨とiPhoneを発掘して「いや〜、ホモ・サピエンスってのは愚かな動物だったよね〜」とか話し合ったりするんだろうか?

しかし、この本は誰かを非難するような書物ではないし、説教くさいものでもない。上記は、本書を読んだ私個人の感想である。

Leave a Reply