自立を誇りにしていたアメリカ人女性がなぜか日本の主婦になってしまった実話 The Good Shufu

著者:Tracy Slater
ハードカバー: 336ページ
出版社: G.P. Putnam’s Sons(Penguin Random House)
ISBN-10: 0399166203
発売日: 2015/6/30
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:中級+(とても読みやすい文章)
ジャンル:体験記/回想録
キーワード:恋愛、国際結婚、仕事と家庭、主婦、家族、異文化交流、愛、心温まる本

 

日本人の国際結婚はもう珍しいものではない。誰でも友人、知人、親戚を見渡せば、何組か見つかるはずだ。

だが、本書の著者の場合は、よくある国際結婚とはちょっと違う。

ボストン郊外の裕福な家庭で育ったTracy Slaterは、男性に頼らず自立して生きている自分を誇りにしてきた女性だ。大学で教鞭を取るかたわらボランティアで囚人に文章教室をし、ボストンの文芸シーンであるFour Storiesを創始し、多くの友人に囲まれていたTracyは、異国やエキゾチックな恋には無関心だったし、結婚も考えていなかった。

ボストンが大好きで、独身生活に満足していたTracyなのに、あろうことか(英語がそれほど達者ではない)日本人男性と恋に落ち、二国間を行き来する長距離恋愛を続け、(日本語もろくに話せないのに)大阪で「主婦」になってしまったのである。

ふつうの国際結婚の場合には、いっぽうが相手の言語や文化に興味を抱いているか、少なくともある程度理解している。だが、ビジネススクール留学中のアジア人ビジネスマンにコミュニケーション法を教える短期の仕事を引き受けたTracyと、会社からの派遣留学生だったToruは、どちらも相手の言語や文化に通じていなかった。(というか、興味も抱いていなかった)

彼らの運命を変えたのは、突然空から降ってきたような理屈抜きの「恋」である。

それにしても、「こんなに話が通じないのに、大丈夫なのか?」とハラハラさせられるカップルだ。ボストンと大阪という距離の問題もある。どちらも住処を移動したら職を失う。自分と同じように裕福なユダヤ人男性と結婚してほしいTracyの母親は婉曲的に反対を続けるし、難問だらけ。なのに、二人は障壁を次々に乗り越えて何年もかけて深い愛情の絆を作り上げていく。

Tracyの体験談を読みながら感じたのは、「カップルの言語と文化が同じではない」というのは、もしかすると欠陥ではなく利点ではないかということだ。

母国語ではない言葉で語り合うのは難しい。ときおり誤解することもある。けれども、流暢な言葉でごまかせないので、人間性は露呈しやすい。(TracyがToruの真の価値を感じ取ったように。)また、同国人が相手だとわかってもらえないときに腹が立つが、異なる国から来た人が相手だと、理解しようと努力し、譲歩もする。努力や譲歩をしたほうが、関係は長続きする。

私は東京で知り合ったアメリカ人と結婚して現在はボストンに住んでいる。そして、故郷は大阪の隣の兵庫県だ。だから著者のTracyとは微妙に逆の立場なのだけれど、大切な人とその人の国に対する心境の移り変わりは似ている。そして、相手を理解する努力と感謝の気持ちもだ。

特に気に入ったのが、The Good Shufu全体に漂う暖かい雰囲気だ。

TracyとToruは若いカップルではないのに、青春小説の主人公たちよりずっとキュートだ。彼らの体験談は、よくあるロマンス小説よりずっとロマンチックで、ときに目が熱くなり、胸がキュンとする。

妻を亡くして孤独になったToruの父親とTracyの関係もいい。こんな嫁と舅の関係なんて、日本人同士でもそうないんじゃないか。というか、日本人同士ではなかったからこそ、互いの努力への「ありがたさ」が身にしみたのかもしれない。

邦訳は既に決まっているようなので、英語で読めない人も翻訳版が出版されたらぜひ読んでいただきたい。

 

 

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