出来損ないオタクドラゴンの恋と冒険 Nice Dragons Finish Last (Heartstrikers #1)

著者:Rachel Aaron
ペーパーバック: 283ページ
ISBN-10: 1500506338
発売日: 2014/7/11
適正年齢:PG 12(中学生以上。性的な話題は少しあるけれど、描写なし)
難易度:中級+(ファンタジーや日常用語にさえ慣れていれば読みやすい)
ジャンル:YAファンタジー/パラノーマルファンタジー
キーワード:Dragon(ドラゴン)、mage(魔術師)、魔物、魔力、urban fantasy (都市が舞台のファンタジーのサブジャンル)、ディストピア
こんな小説が好きな人にお薦め:The Iron Druid Chronicle

魔力が消えていた世界に突然魔力が復活し、大いなる魔力を持つThe Lady of the Great Lakesがデトロイトを崩壊して自分の支配下に置いた。かつてのデトロイトは「Detroit Free Zone (DFZ)」と呼ばれ、他の地の法が通じない世界だ。

DFZではドラゴンは人間の姿をしていなければならない。ドラゴンの姿になったら捕らえられて殺される。それがThe Ladyの作った掟である。若いドラゴンのJulianは、実の母の魔法によって人間の姿に封じ込まれ、家を追い出されてDFZに放り込まれてしまった。その理由は、Julianが出来損ないのドラゴンだからだ。

ドラゴンは(特にキラキラした)宝物やお金を貯めこむのが好きで、人の心を操って利用するのが得意で、無慈悲で、残酷な生き物である。そして、それらの特徴を極めているのが「良い」ドラゴンなのだ。けれどもJulianは、生まれつき小柄で、他者を傷つけるのが嫌で、人殺しなんて想像するのも嫌だ。それより人助けをしたい。ドラゴンの世界で最大の勢力を持つHeartstriker族の長である母Bethesdaは、そんな末息子を恥じていて、ことあるごとに「食べてしまうぞ」と脅してきた。でも、今回は口先だけの脅しではないらしい。BethesdaがJulianに与えたのは、絶体絶命の指示だった。

不可能に近い難題を解決して生き延びるためにJulianが雇ったのは、若い女性mage(魔術師)のMarciだった。だが、ラスベガスから逃げてきたMarciには秘密の過去がある。Marciを追う者とドラゴン族の対立問題、預言者の陰謀が交じり合い、二人は次々と危機に陥る。

アメリカでは、ここ10年ほどYAファンタジーが良く売れるために大手出版社が力を入れている。けれども、BookExpo Americaなどで大きく宣伝される作品はお決まりのタイプの登場人物による、ありがちなプロットである。だから最近はARCをいただいても読む気力がないことがある。

最近偶然みつけたこの『Nice Dragons Finish Last』は、最近のベストセラーYAファンタジーとは異なる味があり、とても楽しんで読めた。

主人公のJulianは、かつて家にひきこもってコンピューターにかじりついていた「おたく」で、他人から「ありがとう」と言われると嬉しいという出来損ないドラゴンだ。魅力的なMarciに接近されても、彼女が危険に巻き込まれるのを恐れて興味が無いふりをしてしまうナイスでシャイな性格だ。ドラゴンは何千年、何万年も生きるのだが、末っ子のJulianは本当に22歳の若者なので、23歳のMarciに「せっかく憧れのドラゴンに会えたのに、私より年下なんて!」がっかりされてしまう。そういうときに、心の中で自信のなさと葛藤するのがJulianの魅力であり、読者は共感を覚えるのではないかと思う。

また、沢山いるJulianの兄と姉のバラエティも面白い。忘れっぽくて変人の預言者の兄、残忍で不気味だけれど、それより上手の母から兄弟を守る姉、身体はデカイけれど頭はほとんど使わないJulianの双子とかキャラクターもよく考えている。

軽い内容だが、キャラが楽しく、スピーディな展開で決して飽きないYAファンタジーだ。そのあたりが、The Iron Druid Chronicleに似た読書感だ。

著者はこれまで大手出版社から刊行していたのだが、このシリーズは自分で出版社を作って自費出版している。最近ではロマンス小説分野だけでなく、SFやファンタジーでもこういった動きがみられ、興味深い。

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