ナチスドイツに包囲されたレニングラードを音楽で世界に伝えたショスタコーヴィチの苦悩を語るYAノンフィクション Symphony for the City of the Dead

著者:M.T. Anderson(全米図書賞受賞者、プリンツ賞オナー賞受賞者)
ハードカバー: 464ページ
出版社: Candlewick
ISBN-10: 0763668184
発売日: 2015/9/22
適正年齢:PG12(中学〜高校生向け)
難易度:中級+(それぞれの文が短くシンプルだが、突然陳腐な表現だらけの長いセンテンスが出てくる)
ジャンル:YAノンフィクション/歴史ノンフィクション
キーワード:Dmitri Shostakovich(ドミートリイ・ショスタコーヴィチ)、Symphony No 7 in C major(交響曲第7番『レニングラード』)、Leningrad(現在のSaint Petersburg/サンクトペテルブルク)、siege of Leningrad(レニングラード包囲戦)、政治、歴史

英語でSaint Petersburg、日本語でサンクトペテルブルクと呼ばれるロシアの都市は、かつて何度か名前を変えさせられた。

1914年まではロシアの首都であり、創設した皇帝ピョートル1世が自分と同名の聖人ペテロ(Saint Peter)にちなんで「Saint Petersburg/サンクトペテルブルク」という名前をつけた(当初はいろいろバラエティがあったようだ)。だが、ドイツとの交戦でロシア風にPeterograd(ペテログラード)と呼ばれるようになり、1917年の革命で社会主義国になったロシアの指導者レーニンが亡くなった後、Leningrad(レニングラード)と改名された。第二次世界大戦後も冷戦中はそのままだったが、ソビエト連邦が崩壊して初めての大統領選が行われた1991年にレニングラードは住民投票で都市名を「Saint Petersburg/サンクトペテルブルク」に戻したのである。

西側のヨーロッパ諸国に近いSt. Petersburgは、古くから芸術の中心地でもあった。この都市で生まれ育ったショスタコーヴィチは、稀な才能に恵まれながらもこの美しい都市と同様に政治や戦争に翻弄された犠牲者でもあった。第二次世界大戦後の冷戦中に「ソ連のプロパガンダ作曲家」と言われて評価が低かったのだが、ソ連の国内では(民主主義国家で評価されたために)西寄りの人物として批判され、脅しを与えられていたのだった。西側が「プロパガンダ作曲家」と決めつけたショスタコーヴィチは、ソ連政府が国民に与える恐怖、屈従、精神的束縛を憎み、恐れながら生きていたのだった。

ショスタコーヴィチの作品の中では、特に通称『レニングラード』のSymphony No 7 (交響曲第7番)がよく知られている(下記はヴァレリー・ゲルギエフの指揮による演奏)

1941年、ナチスドイツ軍はレニングラードを包囲した。連絡路が途絶え、戦火だけでなく、飢餓で多くの市民が亡くなった。路上には死体があふれ、44年に解放されるまでに60万人から100万人の市民が死亡したといわれる。

このレニングラード包囲戦のさなかにショスタコーヴィチが作曲したのが「Symphony No 7 (交響曲第7番)」だった。この楽譜が国家機密扱いでスパイによって連合国の手に渡り、ナチスに抵抗する勇敢なレニングラードを応援し、称えるために世界各地で演奏された。

M.T. Andersonは、この新刊でショスタコーヴィチの交響曲第7番をテーマに、レニングラードという都市とその市民が辿った悲劇的な歴史を紹介している。よく調査もしてあり、写真も多く、情報としては非常によくできた本である。ロシア革命への市民の期待と、革命後に政府によって悲劇を迎えた多くの知識人や芸術家のことは、何度別の本で読んでも胸が痛む。

もうひとつ読者にとって興味深いのは、ロシア革命後のアヴァンギャルドな芸術の台頭についてだ。
裕福な層が愛したクラシックな芸術を否定する未来的な新しい芸術を、社会主義政府はプロパガンダとして活用したのである。一見体制に反対するかのようなアヴァンギャルド芸術が、じつは最も体制に近いものだったのだ。

Symphony for the City of the Deadはとても興味深い本なのだが、問題もある。
YA(ヤングアダルト、ティーン向け)なのでわかりやすくしたかったのか、文章がドライすぎる。ひとつの文が短いのはかまわないのだが、どちらかというと「つっけんどん」な印象で、ティーンには入り込みにくい。では大人向けに良いのかというと、文章に魅力がなさすぎる。ときおり長い文が出てくるのだが、使い古された表現や陳腐な表現だらけなのだ。

しかし、そのような文を無視すれば、「あまり難しくない歴史ノンフィクションを読みたい」という日本の洋書ファンにお薦めできる本である。

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