『その女アレックス』の著者の新刊は、戦争が残した醜い傷を描くダークな歴史小説 The Great Swindle

著者:Pierre Lemaitre (ほかに、Alexなど)
ハードカバー: 442ページ
出版社: MacLehose Press
ISBN-10: 1623659035
発売日: 2015/9/22
適正年齢:PG 15
難易度:中級+(フランス語の英訳なので、不自然なところは多いけれど、ある意味日本人にはわかりやすい)
ジャンル:歴史小説/スリラー
キーワード:第一次世界大戦、フランス、詐欺、復讐

第一次世界大戦の終わりが見えてきた1918年、それまで祖国のために死を覚悟で戦ってきたフランス軍兵士たちの間には「ここまで生き延びたのだから、今さら勇敢に闘って死にたくない」という雰囲気が漂っていた。だが、対ドイツ戦の前線を指揮する大尉のHenry D’Aulnay-Pradelleには、個人的な野望があった。

すでに士気を失いつつあるドイツ軍と静かに睨み合っている状況を変えるため、Pradelleは部下の兵士たちに、塹壕から出て前線を進めるように命じた。そして、ドイツ軍を攻撃するきっかけを作るために、部下二人を背後から射撃して殺した。倒れた仲間に駆け寄ってその事実を悟ったのは、Albert Maillardという若い兵士だった。口封じのためにPradelleから深い穴に突き落とされたAlbertは、それに続く砲撃で生き埋めになり死を覚悟した。Albertを救ったのは、同胞のEdouard Péricourtだった。だが、運命は勇敢な英雄のEdouardよりも、利己的で無慈悲なPradelleに微笑みかける。

戦後フランスの混乱と家族の死に打ちひしがれる人々を犠牲にして富と力を蓄えていくPradelleに対し、AlbertとEdouardも異なる詐欺を進めていた……。

Alexその女アレックス )』の著者Pierre Lemaitre(ピエール・ルメートル)の新刊だが、本書は犯罪ミステリではなく、歴史小説(スリラーの要素が強い)である。AlbertとEdouardは冷酷で自己中心的な上官の犠牲者だが、どの読者も、戦後も私利を肥やし続けるPradelleがこのままでいるはずはないと思うだろう。ジェフリー・アーチャーの『Not A Penny More, Not A Penny Less 百万ドルをとり返せ! )』のパターンを期待する読者もいるかもしれないが、似ているようで似ていない。読後感はAlexのものに近く、戦後のフランスを読めるという点ではAlexよりも読み応えがある。でも、ぞっこん惚れ込めない

私がルメートルに惚れ込めないのは、「プロットのクレバーさを優先している」という印象を捨てきれないからだ。プロット優先の小説であってもキャラクターは重要だ。小説を読み進めるうちに登場人物について学び、だんだん一人の人間として深く理解できるようになる。その過程が面白いのだ。

だが、ルメートルのキャラクターは、一見ユニークそうなのにお決まりパターンだ。「意外な展開」で暴露されるのが、どうしても生身の人間に感じられない。特に女性についてそう感じる。かのAlexにしても、私には「プロットのために作られた女」としか感じられなかった。

しかし、そういう欠陥があるにしても、このThe Great Swindleの舞台や展開はアメリカ人作家が描いてきた戦中、戦後のフランスよりもリアリティがあり、この独自のダークさを楽しめる読者は多いだろう。

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