キューバ危機当時のフロリダを舞台に繰り広げられる家族ドラマ A Place We Knew Well

著者:Susan Carol McCarthy
ハードカバー: 272ページ
出版社: Bantam
ISBN-10: 080417654X
発売日: 2015/9/29
適正年齢:PG 15(精神的成熟度は必要だが、露骨な表現はない)
難易度:上級レベル(文章構造は難しくないが、60年代アメリカ人が交わす会話の癖がわかりにくいかもしれない)
ジャンル:歴史小説(キューバ危機)/家族ドラマ
キーワード:キューバ危機(Cuban Missile Crisis)、ケネディ大統領、カストロ、キューバ、ソ連、冷戦、核戦争、

1962年10月16日からの13日間、冷戦化のアメリカとソビエト連邦は、カストロ政権のキューバを舞台に核戦争勃発寸前の危機にされされた。いわゆる「キューバ危機(Cuban Missile Crisis)」だ。

この小説の主人公 Wes Averyは、フロリダ州オーランド空軍主要基地近くでガソリンスタンドと車の修理会社を経営している。第二次世界大戦中は東京大空襲の爆撃隊のひとりであり、原爆投下後の広島も空から目撃している。

Wesは、戦後に文通で知り合った女性と結婚し、一人娘は高校でホームカミングクイーン候補にも選ばれるほど美しく育った。誰に対しても優しく、妻への貞節を守り、娘に最大の理解者であり、家族を守るために経済的な安定も達成したWesは、人生に満足していた。だが、すでに多くの問題を抱えていた妻のSarahは、「核戦争の危機」のやるせない不安と緊張で、ついに精神的に崩壊してしまう。

私より年上のアメリカ人は「キューバ危機」をよく覚えているが、若い世代はソビエト連邦との冷戦そのものをほとんど忘れている。だから日本ではもっと知らない人が多いだろう。ずっと後になってわかったことだが、ケネディ大統領とフルシチョフ首相が陰でネゴシエーションをしていなかったら、第三次世界大戦に発展していた可能性もあるほどの危機だったのだ。カストロがフルシチョフに対してアメリカに核攻撃するよう迫ったこともわかっている。

第二次世界大戦で広島と長崎に原子爆弾を投下したアメリカは、キューバ危機により、自ら創り出した魔物に脅かされることになった。この時期にはすでに核兵器は広島や長崎のものとは比較にならないほど強力になっており、広島の惨事を目撃したWesは、核戦争になったら生き延びる可能性などはないことを十分承知している。だから、アメリカ政府が国民を安心させるために広めている防衛の心得や活動に呆れ、憤りを覚えている。

単なる家族ドラマとしても面白く読めるが、実はこれは著者による歴史、公民、倫理の教育でもある。

主人公のWesは、東京大空襲の前に司令官のルメイ少将が「東京に民間人などいない」と言い切ったことや、自分が関わった空襲が大量虐殺になったことを戦後17年たっても忘れていない。上に立つ者が血に飢えた残虐な性格であるときに歴史が変わるということを肌で知っているWesは、若い大統領がそういった軍人たちのプレッシャーに負けるのではないかと心配している。

読者が感情移入しやすい善良なアメリカ人男性Wesの視点を通じて、アメリカ人読者は第二次世界大戦でのアメリカ軍の行為に疑問を抱かずにはいられない。日本人がストレートに悲劇を書いたら読みもしないアメリカ人に「東京大空襲って、そんなにひどいことだったのか。知らなかった」と思わせるのが、著者の巧みなところだ。

また、キューバからの難民である17歳の青年Emillioの立場を通じて、なぜフロリダのキューバ移民たちが民主党を憎む共和党員になったのかもわかる。

大傑作とはいえないが、読みやすく、見過ごされがちな歴史を知るためにも、おすすめの作品である。

SNAFU(Situation Normal: All Fucked/Fouled Up、まったく混沌とした状況)とかいう軍隊用語や当時の男性特有の話し方などは読みにくく感じるかもしれない。けれども、基本的にはシンプルな英語。

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