著者:Laura Ruby
ハードカバー: 368ページ
出版社: Balzer + Bray
ISBN-10: 0062317601
発売日: 2015/3/3
適正年齢:PG 15(マイルドだが性的なシーンはあり)
難易度:上級(高校生対象の本なので、大人向けよりは読みやすいが、通常のYA小説より読解力を要する)
ジャンル:YA(ヤングアダルト)/ホラー
キーワード:マジックリアリズム
賞:2016年プリンツ賞受賞、2015年全米図書賞最終候補

写真はWikimediaからのパブリックドメイン
トウモロコシ畑が延々と続くアメリカ中西部のBone Gap。
人口が少ないこの町では、少しでもほかの人と違うと、嫌な噂を流され、虐められ、のけ者になる。それはどこの田舎町でもあることだが、Bone Gapには、ほかの土地とは異なる「なにか」が潜んでいる。
父が死んだあと母に捨てられてふたりきりで暮らしている兄弟SeanとFinnの納屋に、ある日怪我をして怯えた少女Rozaが現れる。ポーランド語訛りのつたない英語しか話せないRozaはいつしか兄弟にとってなくてはならない存在になるが、現れたときと同じようにこつ然と姿を消す。
Rozaが背の高い男に連れ去られるのを目撃したFinnが「誘拐だ」と言っても、町の住民は誰も信じなかった。Rozaに恋をしていたSeanでさえも。その理由は、みなFinnの言葉など信用できないと思っているからだ。
住民が勝手にRozaやFinnのことを憶測して噂話をしている間にも、Bone Gapでは次々に奇妙なことが起こっていた。でも、それに気づくのはFinnだけだ……。
全米図書賞の最終候補、プリンツ賞受賞、というだけあって、よみごたえ、ユニークさ、隠れたメッセージ、のすべてが揃っている逸品だ。
まず、主人公のFinnがいい。
人の顔を見ようとしないし、いつもぼんやりしているように見えるFinnは、兄でさえ理解できない「変わり者」だ。学校のならず者たちは、moonfaceとかSpacemanと呼んで集団でFinnを殴りつける(Finnすら知らない彼の「障がい」が読者にも後でわかるようになっている)。
けれども、人と違うからこそ、Finnにはいろいろなことが見えている。そして、それが彼の持つパワーなのだ。
誘拐されるRozaも私が好きなキャラクターだ。
YAの読者層である思春期の少女は、たいてい「美人は得」と思い込んでいる。よく売れるYAファンタジーの主人公の少女はたいてい美人で、だから(ほぼ理由なく)相手から愛される。
だが、美貌のせいで嫌な体験ばかりしているRozaは、自分の容姿を迷惑だとしか思っていない。現実社会では「美人は得」ではないのだが、それを少しでも若い女性に伝えてくれているのが本書のいいところだ。
登場人物がよく描けているだけでなく、テレビ番組の「ツイン・ピークス」やスティーブン・キングが描くメイン州の田舎のように、アメリカの田舎の美しさと怖さがじわじわ伝わってくる。
でも、FinnがRozaを探すクエストの部分はニール・ゲイマン的であり、マジックリアリズムという点でほんの少し村上春樹的だ。
YA(ヤングアダルト)小説なので、前述の作家たちほど詳しく書き込んでいないが、それゆえに読みやすいともいえる。
マジカルな世界にひたってみたい方にお薦めの1冊。