著者:Matt De La Peña (文), Christian Robinson (イラスト)
ハードカバー: 32ページ
出版社: G.P. Putnam’s Sons Books for Young Readers (2015/1/8)
ISBN-10: 0399257748
発売日: 2015/1/8
適正年齢:PG(保育園から小学校1、2年生)
難易度:初級(中学校レベルの英語)
ジャンル:絵本
キーワード:アメリカ都市部、公営バス、ダイバーシティ、祖母と孫、人助け、ふれあい
賞:ニューベリー賞、コールデコット賞オナー賞(イラスト)、コレッタ・スコット・キング賞オナー賞(イラスト)
敬虔なキリスト教徒にとって、日曜はきちんとした服をきて教会に行く日だ。
アメリカの都市部(坂道からサンフランシスコを連想させる)に住む黒人の少年CJは、おばあちゃん(Nana)と一緒に教会に行ったあと、バスに乗って終点のMarket Streetに行く。それがいつもの日曜の過ごし方だ。
でも、雨の中を歩いてバス停に向かうCJは車で通りすぎている友達をみて、自分の家に車がないことや、日曜にわざわざでかけなくてはならないことに愚痴をこぼす。
そのたびにおばあちゃんは自分たちに与えられたすばらしい世界の見方を教える。
上記の賞のようにALAの重要な賞を総なめし、ニューヨーク・タイムズ紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙が選ぶ2015年のベスト児童書のひとつにも選ばれたという注目の絵本であり、たくさんの魅力がある。
私も幼いころに祖母と一緒にバスでいろいろなところにでかけたので、CJの体験はとてもノスタルジックだった。ふだん触れている大人の視点が子どもの考え方の基本をつくりあげるので、フレンドリーで前向きなNanaと一緒にすごせるCJはラッキーだ。お年寄りと幼い子どもの関係の重要さが伝わるのもいい。
都市部でのバスを通じて自分とは異なる人に偏見を抱かずにふつうに接することを教えてくれるところにも好感を抱いた。
けれど、ひとつだけどうしても納得できないところがあった。
CJの”how come we don’t got a car?” という話し言葉だ。
‘don’t got’は、アフリカ系アメリカ人の間ではよく使われるスラングだが、スタンダードなアメリカ英語とはみなされていない。
スタンダードなら、”How come we don’t have a car?”
そのほかにも”How come we always gotta go here after church?”というのがあったが、ここにもひかかった。英語ネイティブでもちゃんと文法を習っていないとよく間違えるらしいが、hereならcome、thereならgoだ。彼らがバスでその場所に向かっている状況を考えると、”How come we always have to go there after church?”がスタンダードだ。
“Miguel and Colby never have to go nowhere“にいたっては、スラングというよりも教育を受けていない者が話す不正確な英語でしかない。
作者たちは都市部に住むCJのリアルさを伝えるためこのような英語を話させたのだろうか?
大人向け、あるいはYA(ヤングアダルト)向けならかまわないと思うのだ。複雑なコンセプトが理解できる年齢だから。児童書でも、シチュエーションを伝えるためにスラングを使うことが重要であればそれはもちろんいい。
でも、これは、3歳から6歳くらいが対象の絵本だ。
子どもたちは、周囲の大人たちがふだん話している言葉遣いとちがうと、おもしろがって真似をするか、「なぜこの子は私たちと違う話し方をするの?」と大人に尋ねる。
そのとき身近にいる親の答えや態度により、子どもは自分の意見を作る。
人種間に深い溝がある現在のアメリカで、都市部の黒人にすでに偏見を抱いている白人の大人や絵本の中身をシンプルな現実としてとらえがちな幼い子どもに、この絵本がきっかけで「黒人はみんな間違った文法のスラングを話す」というステレオタイプの印象を与えるとしたらすごく嫌だ。
一読者として強く感じたのはそこだ。
この少年がアジア系アメリカ人だったとして、読者にすぐわかる典型的なアジア系移民の文法的間違いや発音の間違いを話していたら、きっとすごく嫌だったと思うから。
子どもには、自分とは違うことを嗅ぎつけて、イジメの材料に使う残酷さがある。本のせいでわが子幼稚園や小学校のクラスでからかわれるのを心配したかもしれない。学校や教師がしっかりしていればイジメの芽を摘み取ってくれるけれど、現実はそうではない場所のほうが多い。
この絵本は、ラテン系アメリカ人作家とアフリカ系アメリカ人イラストレーターのコラボだ。だから編集がOKを出し、メディアが何も指摘しないのかもしれない。作者たちがもし白人だったらどうだろう?「人種差別」と糾弾されるのではないか。やはりダブルスタンダードはよくない。読み聞かせる子どもたちにとっても。編集の人にそのあたりを考えてほしかった。
いつもの年のニューベリー賞としては物足りないし、これだけ多くの賞を取るほどではない。でも、子どもを連れてバスに乗ってでかけなくなるし、日本の子どもたちにもアメリカの都市の感覚が伝わって楽しいと思う。読み聞かせるときには正しい英語に直していただきたいけれど……。
1 thought on “2016年ニューベリー賞受賞作 Last Stop on Market Street”