幻の古代都市「猿神王国」を探し求めるノンフィクション『The Lost City of the Monkey』

著者:Douglas Preston
ハードカバー: 336ページ
出版社: Grand Central Publishing (2017/1/3)
ISBN-10: 1455540005
発売日: 2017/1/3
適正年齢:PG12
難易度:上級(ボキャブラリは上級だが、文章は高校英語の読解力で十分)
ジャンル:ノンフィクション
キーワード:ホンジュラス、中南米、古代文明、La Ciudad Blanca、シウダー・ブランカ(白い街)、White City、猿神王国、City of the Monkey God、マヤ、スペイン征服時代


2015年のナショナルジオグラフィックの『謎の古代文明の遺跡を中米で複数発見、マヤとは別』という記事のことを覚えている人がいるかもしれない。

その記事は次のように始まる。

ホンジュラスの密林へ分け入った探検隊が、失われた文明の遺跡を発見したという驚くべき報告を携えて戻ってきた。この地域には昔から「猿神王国」あるいは「シウダー・ブランカ(白い街)」という古代文明にまつわる伝説が存在し、その遺跡がどこかに眠っているといわれてきた。探検隊はその場所を確かめるために、人里離れた未開のジャングルへと足を踏み入れた。

古代文明好きの人は、もうこれだけでドキドキしてくるはずだ。

中南米の古代文明で有名なのは、マヤ、アステカ、インカだ。
だが、ホンジュラス東部モスキティアの未開の密林にある伝説の「City of the Monkey God(猿神王国)」の文明はそのいずれでもないという。地理的に最も近いのはマヤ文明だが、それとも異なるというのだ。

このナショジオの記事を書いたのは、人気作家のDouglas Preston(ダグラス・プレストン)だ。
そして、この本を書いたのが、そのプレストンなのだ。

プレストンは、リンカーン・チャイルドとの共作でFBIスリラーを書いているし、実際に起こった殺人事件について書いたノンフィクション『The Monster of Florence』がヒットしたので、犯罪小説あるいはリアルクライム小説家という印象がある。でも、以前からナショナルジオグラフィックやニューヨーカーにもよく寄稿している優れたライターだ。広範囲のものに興味を抱き、徹底的に掘り下げる癖があるようで、それがこのノンフィクションでも活きている。

プレストンは、考古学者、学者、映画プロデューサーで構成されたチームに誘われて、伝説の猿神王国(あるいは白い街)の探索に参加することになった。

この古代文明がこれまで発掘されなかったのにはいくつもの理由があるが、最大の理由はアクセスするのが非常に難しいことだ。
ホンジュラスは、犯罪が多く、政治が不安定で中南米でも特に危険な国だ。
ビザや発掘の許可を得ることは不可能に近いし、伝説の都市があると疑われる場所は、現地人ですら何百年も足を踏み入れていない未開のジャングルだ。猛毒を持つ蛇、人を恐れないジャガー、病原体を媒介する虫や動物、寄生虫がウヨウヨしている危険だらけの場所なのだ。しかも、この都市に足を踏み入れた者は謎の死をとげるという呪いまであるらしい。

つい、インディアナ・ジョーンズを想像するが、プレストンの本を読んでいると、映画以上に危険だと思えてくる。特に、彼らが無事に帰国した数ヶ月後に発生した不気味な病気だ。

ジャングルでのキャンプなので、どんなに強い虫よけを塗っても、蚊やサシチョウバエ(sand fly)などから刺されることは避けられない。熱帯での病気で怖いのは、デング熱、黄熱病、マラリアなどだ。発掘隊のメンバーは、それらを避けられたのだが、どうしても治らない虫刺されの痕があった。治るどころか、クレーターのような潰瘍になっている。世界のあちこちに散らばっているメンバーたちが知ったのは、グループの半数が同じ症状で苦しんでいることだった。

彼らが数々の医療機関を訪問してようやくわかったのは、リーシュマニア原虫が吸血昆虫サシチョウバエを介して感染させる「リーシュマニア症(Leishmaniasis)」という寄生虫疾患だということだった。死に至ることもある深刻な疾患だが、普通の医療機関では治療してもらえない。まるで、伝説の呪いみたいだ。

プレストンは、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』からの説を紹介し、「猿神王国」が突然消えたのは「新世界」からスペイン人が病を持ち込んだからではないかと説く。そして、皮肉にも古代文明の疾患に報復されている自分たちの状況を客観的に分析している。この部分を蛇足と感じる読者もいるようだが、私には興味深い部分だった。

私は、本書に出てくるロアタン(ホンジュラス)、コスタリカ、マヤ遺跡のティカル(グアテマラ)、インカ帝国の遺跡マチュピチュ(ペルー)、そしてパナマの未開のジャングルを訪問したことがあるので、プレストンの体験が目に浮かび、まるで自分の体験のように楽しむことができた。苦手なsand flyがいない、ボストン近郊にいることを感謝しつつ。

余談だが、次にジャングルに行くときには、蛇避けのブーツと虫よけクリームを大量に持参しようと強く思った。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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