「Memoirs of a Geisha + The Name of the Wind」という奇妙な組合わせのダークなYAファンタジー 『The Bone Witch』

著者:Rin Chupeco
ハードカバー: 400ページ
出版社: Sourcebooks Fire
ISBN-10: 1492635820
発売日: 2017/3/7
適正年齢:PG12(中学校高学年から高校生向け)
難易度:中級+〜上級
ジャンル:YAファンタジー
キーワード:魔術、ラブストーリー、Asha、Bone Witch、芸者、復讐

主人公の少女Tea(お茶を由来にした名前ティー)が住む世界では、ある年齢に達すると自分の魂の延長である「ハートグラス(heartglass)」を受け取る。ハートグラスは持ち主の感情や健康を反映して色を変える。青は不安で、緑は病気といった具合だ。

だが、ハートグラスは心情だけでなく、能力も示す。たとえば、銀色(silver)は、持ち主にruneを使える(つまり何らかの魔力を行使できる)能力があることを意味する。ハートグラスが銀色を示したら、男性は魔物と戦う戦士、女性はアートと魔法を操るAshaにリクルートされる。

Ashaは、fire, earth, water, windの4つのエレメントを操作する能力を持つ女性戦士でありながら、音楽や踊りを極めたエンターテイナーでもある。それらを鍛えるために年配のAshaが経営する家に属してトレーニングを積む。トレーニングのためには膨大な費用がかかるが、要人のパーティで接待することで借金を返す(このあたりのシステムは芸妓と置屋の関係にそっくりだが、昔の日本のシステムのように売春など性的な奉仕はない)。

Teaは、ハートグラスを作る年齢に達する前に、偶然の出来事から自分がAshaであることを知る。
しかも、とても稀なDark Ashaであることを。

Dark Ashaは、通常の4つのエレメントではなく、「死」に関する魔術を使う。The False Princeが死の魔術で作り上げたモンスターのDaevaたちを殺せるのはDark Ashaだけなのだが、Daevaはいったん死んでも数年に一度は蘇る。したがって、DaevaとDark Ashaの戦いは永遠に繰り返される。

Dark AshaはDaevaから住民を救うにもかかわらず、人々からは 「Bone Witch」として恐れられ、忌み嫌われている。死に関わる魔術を使うからだ。自分の能力をまったく知らなかったTeaは、Daevaとの戦いで死んだ兄をはからずも蘇らせてしまう。生まれ育った故郷にとどまれなくなったTeaは、その場にいたBone Witchに誘われて兄と一緒に訓練の旅に発つ。

***
「Memoirs of a Geisha meets The Name of the Wind」という説明でNetGalley(電子書籍版のARC)を出版社からいただいたのだが、あまりにかけ離れた2つの作品がどう繋がるのか想像できなかった。
通常はこういう説明は外れるのだが、読みはじめてすぐにピッタリの表現だと思った。著者がこの2つの作品を読んでいるのはまちがいないだろう。

Ashaのシステムはまさに芸者だ。しかも、内容を読むと、オリジナルの文献から得た知識というよりも、『Memoirs of Geisha』に似ている。そして、伝記作家への告白でストーリーを伝えるのは、『The Name of the Wind』の手法だ。イノセントだった主人公が、数々の困難を経て「王殺し」として追放の身になるところも似ている。

そういう「借り物」なところはあるものの、最近読んだYAファンタジーのなかでは光っていた。
特に、主人公の人物像が複雑なところだ。
忠誠心を持ち、理念を貫き、若きプリンスに恋情を抱きつつも自己犠牲を選んでいた女性主人公が、過酷な現状で数年のうちにニヒルになり、復讐を決意しているところが異なる。
彼女の過去や、性格の変化など、1巻が終わった後にも数々のミステリが残っている。次の巻を待ち遠しくさせるところなどもうまい。

もしAshaのシステムがMemoirs of a Geishaに酷似していなかったら、5つ星を与えたと思う。

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