遅咲き日系人作家が生み出した、これまでにない私立探偵 IQ

著者:Joe Ide(デビュー作家)
ハードカバー: 336ページ
出版社: Mulholland Books
ISBN-10: 0316267724
発売日: 2016/10/18
適正年齢:PG15(セックス&ドラッグの話題あり)
難易度:上級〜超上級(特殊なスラングであるギャングスター英語での会話が多い。故に難易度が高い)
ジャンル:ミステリ・スリラー
キーワード:ロサンゼルス、ハリウッド、ラップ音楽、South Central LA、黒人コミュニティ
賞:2017年エドガー賞 新人賞候補

邦訳版の解説を書かせていただきました。

ロサンゼルスの中でも犯罪が多いことで知られるサウス・セントラル地区で育った黒人青年Isaiah Quintabe(イザイア・クィンタベ)は、近隣(hood)の黒人コミュニティで「IQ」というニックネームで知られている。名前のイニシャルが示すようにIQが並外れて高く、シャーロック・ホームズのように謎を解き、問題を解決するからだ。しかも、Isaiahは、コミュニティの隣人からは報酬を受け取らない。

10年ほど前、トップ大学への進学を目指していたIsaiahは、最愛の兄の死により、精神的にも経済的にもどん底に突き落とされた。追い詰められ、自暴自棄になっていたIsaiahが出会ったのは、高校ですでに犯罪の才能を発揮しはじめていたJuanell Dodsonだった。Dodsonに引きずられるようにして窃盗をし、間接的ではあれ、黒人とヒスパニック系ギャングの間の戦争を引き起こしたことを悔やむIsaiahは、すべてを捨ててDodsonから離れた。

しかし、面倒を見ている少年のために金が必要になり、Dodsonを通じて私立探偵の仕事を引き受けることになる。

クライアントは、スランプに陥っている有名ラップ・ミュージシャンのCalだ。
誰かが彼を殺そうとしているという。Calは、離婚した元妻が背後にいると信じているが、Calを殺そうとしたのは、プロの殺し屋らしい。

Calのマネジャーやプロデューサーらは、特に犯人探しには興味がなく、適当に決着をつけてCalに仕事に戻ってもらいたがっている。誰からも協力を得られないままに真相に近づいていったIsaiahは、殺し屋から命を狙われるようになる……。

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同年代のJoe Ide氏と。

著者のJoe Ide氏とは昨年のBookExpo Americaでお会いしたのだが、黒人コミュニティで活躍する非常にユニークな黒人ヒーローを生み出したのが日系人作家だというのは驚きだった。

「それは偏見ではないか?」と非難されそうだが、そうではない。小説を書くときには、自分がよく知っている材料を使うのが慣わしだからだ。読者の目は厳しいので、よく知らないことを想像だけで書いても、説得力がなく、相手にされない。ロサンゼルスで生まれ育った日系人作家がLAの日系人コミュニティを舞台にした小説を書くなら納得できるが、わざわざ黒人コミュニティを選んだというのが意外だったのだ。

この小説を読んでさらに驚いた。会話といい、登場人物といい、とてもリアルなのだ。
Ideの経歴を読んで納得した。日系人とはいえ、LAのサウス・セントラル地区出身の彼は、黒人コミュニティで育ったようなものだったのだ。

デビュー作なのに、「非常にオリジナル!」と絶賛されているのは、IQという複雑なヒーローと、リアリスティックな登場人物たち、そして、文芸小説のような哀愁がほどよく混じっているからだろう。アクションも多く、飽きないところもいい。

58歳で作家デビューしたIdeは、年齢制限があまりないアメリカでも「遅咲き」と言える。職業も転々としたらしく、脚本家の経験もあるらしい。そういった雑多な体験が、この小説で活きている。

シリーズ化するのはほぼ間違いないが、それだけでなく、テレビドラマになりそうな感じだ。もしかすると、エドガー賞の新人賞も取るかもしれない(発表は4月下旬)。

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